政府は、2020年12月末に「グリーン成長戦略」を策定し50年までにカーボンニュートラルを実現するための工程表を明らかにした。気候変動への対応を成長の機会ととらえ、経済と環境の好循環を作るべく産業政策を実施するとしている。再生可能エネルギーの導入拡大とCO2回収によってCO2排出を大きく減らし、それでも排出する分は森林吸収とネガティブエミッション技術によって除去するというのが基本的な考え方。技術開発から社会実装にいたるまで一気通貫の取り組みを進める。ただ「これならできる」と納得させるには、より具体的に内容を詰める必要がある。

 すでに多くの課題で技術開発が取り組まれており、水素の輸送技術やアンモニア発電などはコストさえ下がれば社会実装は見えてきそうだ。CO2回収・利用(CCU)技術でも炭酸塩利用などはハードルは低く、メタネーション、バイオジェット燃料など液体燃料も実用化が期待される。一方、人工光合成などグリーン水素製造技術や空気中からCO2を直接回収するDAC(ダイレクト・エア・キャプチャー)などはコストの壁が厚い。鉄鋼における水素還元製鉄は、とくに実現困難なプロセスとされる。カーボンニュートラル実現には、これらの技術がすべて必要と考えると、やはり従来の延長線では届かない。

 戦略は2兆円のグリーンイノベーション基金を設け、これを呼び水として民間企業の研究開発費15兆円を誘発する。さらに民間企業の現預金240兆円、世界のESG投資3000兆円を意識して資金誘導を図る。誠に気宇壮大な構想というべきで民間企業の研究開発を促進する効果はあるだろう。しかし社会実装に向けた投資を呼び込む道筋はどうだろうか。税の優遇、投資促進ファンド創設、規制改革、国際標準化などのメニューが並ぶが、やはりカーボンプライシングに関する議論を深めることが必要だ。

 排出量取引、炭素税、国境調整措置などの手法があるが、欧州では一部実施されている。経済界からの反発も以前ほどではない。気候変動対策は膨大なコストをともなうものであり、目先の経済合理性で判断すれば投資不適格となる。このコストは社会が負担すべきものだ。それをどのように徴収するかという方法論の前に、国民が広く、負担に関する議論をする必要がある。負担論をあいまいにしたままでは民間資金の呼び込みなどあり得ない。「地球温暖化に歯止めをかければ国民すべてが受益者となる」-。この考え方が受け入れられる環境が整いつつあるのではないか。

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