国内各地のコンビナートにおいて、カーボンニュートラル(CN)を目指す動きが活発化している。CNは個社の取り組みでは限界があり、業種の垣根を越えて、自治体や市民も巻き込んだ広域連携が欠かせない。その点、山口県周南市は産学官が手を携え、地域の特色や資源を生かした独自の取り組みを模索しているところがユニークだ。モデルケースとなることを目指して欲しい。

 今年1月、周南市が2050年のCNを目指して立ち上げたのが「周南コンビナート脱炭素推進協議会」だ。CN時代のあるべき姿を検討、設計し、必要なプロセスや適切な要素技術の開発テーマを洗い出す官民連携のプラットフォームと位置付ける。

 同協議会は、市と出光興産や東ソー、トクヤマなどの立地企業に加え、アカデミアの第三者的な視点を採り入れることを狙い、化学工学会をメンバーに加えていることが特徴。会長に藤井律子周南市長が就く一方、副会長には東京大学の辻佳子環境安全研究センター教授を迎えた。

 化学工学会は、CN達成のには地域や時系列を考慮したシナリオ構築が不可欠とし、社会システム全体の再構築に最適な学問「化学工学」こそ取り組むべきテーマと認識。21年2月に「地域連携CN推進委員会」を設け、地域の二酸化炭素(CO2)削減を目指し、連携のケーススタディに周南市を選定した。

 同市は化学工学会のケミカルエンジニアリングの知見も得ながら、22年内にも50年のCN社会を見据えた地域のグランドデザインを描く。

 そもそも現在の化学産業の基本プロセスは数十年前に確立されたものだが、CNを目指すなかでは現在と非連続のプロセスの開発に挑む必要がある。その点、化学工学は化学プロセス全体を設計し、原料から製品にいたるマスバランスとエネルギーバランスを解明して各種装置・プロセスを設計するという社会システムの最適化を得意とする。20世紀初頭、石油精製の開発に向けて全体システムを最適化を実現したという成功体験を持つ。

 学会は今後、その知見を生かして同地のカーボンサイクルのイメージを構想し、山口県の豊富な森林資源を活用した木質バイオマスからのオレフィン製造なども視野に入れる。既存のインフラを用い検討テーマに挙がっている。

 コンビナートのCNに向けては、産業間連携に加えて、市民生活も一体となった将来像という視点が欠かせない。CNと同時に市民の心の豊かさも考慮し、魅力溢れる社会の具現化へ、周南市の取り組みに期待が集まる。

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