受け入れざるを得ない変化があったとする。この状況で受け身になるのと、主体的に取り込むのとでは、どんな違いが生まれるのだろうか。パンデミックがテレワークを後押ししたが、オンラインを駆使して業務を効率化する動きはコロナ以前からもあった。早めにシステムを導入していた会社はコロナ後にスムーズにテレワークに移行し、そうでなかった企業は環境整備に追われた。しかし現在、テレワークが常態化したという結果は双方とも変わらない。

 「先行者利益」という言葉がある。テレワーク黎明期に先駆けて導入した企業は、知見の量で優位に立つ。だが出遅れた企業が積極的に適応に取り組むことで、かたちだけ整えて実効性を発揮する段階でもたつく先行企業を追い越せる。むしろ先行事例から学び、より有効な手法を考えつく“後行者利益”を得られるかも知れない。部署の垣根を越えて参加できるオンライン会議のメリットを耳にするようになった。既存業務の単なるオンライン化にとどまらない効果を生んだ事例と言える。

 変化に機敏に処する以上に重要と思われるのが「脅威」ではなく「機会」ととらえるマインドだ。製造業のデジタルトランスフォーメーションに貢献する3Dプリンターは、一面で既存の加工業を駆逐する可能性を秘めていると言えなくもない。近畿経済産業局主導のコンソーシアム「Kansai-3D実用化プロジェクト」では切削、鍛造、鋳造など従来型の加工メーカーが、3DPを使って何ができるかを模索している。

 先日行われた同コンソーシアムによる3DPの導入を検証する成果発表会では、既存加工に比べて精度や量産性などで劣る面が指摘されていた一方で、部品特性を従来比で高機能化できた事例も紹介されていた。試作品製作に有利な特性を生かし、新規事業を展開するうえで重要なツールに位置づける企業も多かった。そこに危機感はあっても視線は未来を向いていた。

 3DPが普及する世界が到来した時、先行者利益はあるだろう。だが必要に迫られて単に置き換えるだけの対応と、そこにチャンスを見いだし、付加価値を生むにはどうすればいいかを考えるマインドの間には、差が生まれることは明白だ。

 技術革新は、その過程で失われるものがあっても、世の中を良くするために誕生し、発展するはず。新技術が普及し、環境が変化したことを認識し、それに慣れた後に適当な価値観が形成される。落ち着かない気分にあるからといって現状を否定するだけの態度は、成功の可能性を潰すことになりかねない。

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