昨年末に改正会社法が成立し上場・非上場を問わず、大企業に1人以上の社外取締役を置くことが義務付けられた。社内の利害関係に縛られない第三者の監査により経営の透明化・効率化を進め、企業の「稼ぐ力」を向上させるという「攻めのコーポレートガバナンス」(企業統治)を実現するのが狙いだ。
 ただ豊富な知見と経験を兼ね備えた人材を社外から迎えることは、そう簡単ではない。上場企業の社長・会長経験者を招きたいというニーズは多いが、そういった人材は限られる。
 東京証券取引所が発行した2019年「コーポレートガバナンス白書」に、上場企業の社外取締役の属性を調べた結果が載っている。それによると他社の社長・会長・CFO(最高財務責任者)経験者が59・1%、弁護士が16・0%、会計士が10・0%、大学教授らが6・8%、税理士が2・8%という割合だった。企業経営の経験者が半数以上を占めるものの、複数社を掛け持ちするケースも多く、質的にも量的にも、社外取締役候補に値する人材が十分確保できているとは言い難い。
 そこで社外取締役の新たな人材供給源として期待されているのが、現役を退いた証券アナリスト経験者だ。彼らは企業経営の経験はないものの大手企業の社長と対話する機会も多く、経営への理解がある。会計やファイナンスに関する知識や担当業界における豊富な知見、グローバルに同業他社を経営比較することで得られる企業分析力がある。また何よりも資本市場のことを一番よく分かっており、それが大きな強みとして生かされるであろう。
 今年2月14日、大塚ホールディングス(HD)は三菱UFJモルガン・スタンレー証券の投資銀行本部シニアアドバイザー(ヘルスケア担当)だった三田万世氏を社外取締役に招聘すると発表した。三田氏は長く製薬業界担当のセルサイドアナリストとして活躍してきた。化学・製薬業界において、証券会社の経営者でないアナリスト経験者を社外取締役に登用するのは初めてと思われる。アナリスト経験者の知見を自社の経営に生かそうとする大塚HDの英断を高く評価したい。
 資本市場のプロであるアナリスト経験者は弁護士、会計士、大学教授、官僚OBにない優れた資質、経験があるといえる。ただアナリスト経験者の社外取締役としての登用は、あまり進んでいないのが実情だ。日本の化学、製薬企業が自社と機関投資家との架け橋としてアナリスト経験者を社外取締役に登用すれば、企業価値向上の切り札になるのではないか。

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