米国において、排出されたCO2を分離・回収して地中深くに圧入し、固定化・貯留するCCSの事業化が加速している。ここで面白いのは、原油増進回収法(EOR)を手がけてきた石油会社だけでなく、トウモロコシなどからガソリン代替燃料であるバイオエタノールを製造する企業が、CCS事業の主な担い手という点だ。

 米国では連邦政府がCCS促進を目的に、1トンのCO2削減につき、最大50ドルの税額控除を行う「45Q税制」を発効している。2026年1月までに建設されたCCS案件が対象で、稼働後12年間優遇措置が受けられる。

 カリフォルニア州は、30年までに石油由来燃料を半減させるため、バイオ燃料など低炭素燃料の使用を促進する低炭素燃料基準(LCFS)を制定している。LCFSは主に石油会社を対象としているが、販売燃料のCO2排出量を削減できないと炭素クレジットを購入して相殺しなければならない。19年1月からCCSでのCO2削減効果がLCFSの炭素クレジットとして算定可能になり、流通市場で高値を付けている。

 この2つの施策が、CCSとは縁もゆかりもない多くのエタノール企業を同事業への投資へ走らせている。自社の発酵工場から排出するCO2を、トウモロコシ畑に掘った井戸を通じて圧入する設備・運営コストを十分賄い、利益も上げられるためだ。

 米国では、バイオエタノール生産地とCCS適地が離れている場合もあり、ついには州をまたいでCO2の大規模パイプライン網を敷設する計画まで出てきた。石油学会の資源講演会で、CCSの大家である京都大学の松岡俊文名誉教授は「45Q税制とLCFSは、米国のエタノール生産にともなうCO2約3000万トンをCCS事業に導き、米国内にCO2パイプライン網を敷くための契機になる」と指摘した。まさに、これこそが政府の施策により、民間事業者の大規模インフラ投資を呼び込むグリーン成長戦略といえるだろう。

 米国連邦議会では現在、45Q税制の控除額引き上げや申請期限延長などを盛り込んだ修正案が審議されている。増額が認められれば、米国でCCS付き石炭火力が生き残る可能性もあるという。

 翻って日本は、どうだろうか。経済産業省の主導でのCCS事業化への議論が始まったばかり。欧米に比べ周回遅れであるのは否めない。このままでは産業活動で排出が避けられないCO2を相殺するために、多額の炭素クレジットを海外から購入しなければならず、国富の流出につながりかねない。

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