企業にとって人材育成は持続成長のための重要課題である。いかにデジタル化が進んでも、それを使いこなす人材は不可欠。製造現場におけるベテラン社員の知識や経験、技術の伝承も企業の財産といえる。コロナ禍で対面式のコミュニケーションの機会が減るなか、企業にとって試行錯誤が続く。

 失敗なども含めて経験則は貴重な教材でもある。日本およびアジア地域に進出している製造業で、生産性や品質向上、改善活動に成果を上げた工場を表彰する日本能率協会の「2022年 GOOD FACTORY賞」でも、その事例が評価された。

 総合的にレベルが高くバランスのとれた工場運営の良さを表彰する「ファクトリーマネジメント賞」を受賞した青森オリンパス(青森県)は、重要製品立ち上げの失敗経験を生かして、失敗に学ぶ(失敗学)仕組みを構築し実施。「失敗学推進委員会」を設置して実践教育に生かし、改善事例を汎用的な真因・知見として横展開している。

 同じファクトリーマネジメント賞の東レ・岐阜工場(岐阜県)は、過去の重大災害を契機とした、工場トップから現場オペレーターまでの安全意識の向上、持続的な安全活動などが評価された。同活動は管理監督者の率先垂範、設備・作業の安全化、ルール遵守・安全風土の醸成、ボトムアップ活動を4つの安全軸として進めてきた。その後発生した休業災害からも学び、安全活動は進化を遂げた。これに加え現場の人材育成、生産安定化を追求している。

 「ものづくり人材育成貢献賞」を受賞したのは花王・栃木工場(栃木県)。現場の知識をベースとした教育と、現場で知識を使いこなすためのツール提供をセットにした。標準化と教育がリンクしており、教育期間の短縮に貢献しているという。運転技能教育支援ソフトなどのツールを活用、同工場での教育終了生を継続モニタリングしフォローする仕組みを作っている。

 「ものづくりプロセス革新賞」のJUKI・大田原工場(栃木県)は、工業用ミシンの海外生産移管が進むなか、日本で生き残りをかけた取り組みを推進している。マザー拠点としての機能を持ちながら、海外拠点に負けない生産を模索し、デジタル・セル生産方式を構築。核となるデジタル標準書を使いこなすための工夫を行っている。

 製造拠点の国内回帰も進んでいるなか、国際競争力のある工場を目指すにはデジタル技術が重要なことは間違いない。加えて、技術を伝承し続けるための人材をいかに確保するか。日本の産業全体の課題でもある。

記事・取材テーマに対するご意見はこちら

PDF版のご案内

社説の最新記事もっと見る