スマートフォンの多くに、有機ELパネルが搭載されるようになった。とくに各ブランドのフラグシップモデルはほぼ100%、有機ELパネルが採用されている。昨年秋に米アップルが新型スマホの4機種すべてに有機ELパネルを採用したことで、業界はより一層「脱液晶」へ加速している。

 液晶から有機ELへディスプレイのトレンドが変わり始めると、多くのディスプレイ材料メーカーは材料開発の軸足を有機ELにシフトさせ、ポートフォリオの転換を図った。一方で事業転換をうまく進められなかったメーカーは厳しい現実に直面した。需要の減少に加え、中国勢をはじめとする新興メーカーとの価格競争も激しさを増していった。アップル向けに液晶パネルを供給していたジャパンディスプレイ(JDI)が最たる例だろう。足元、赤字幅は縮小しているものの、7期連続の最終赤字で待ったなしの構造改革が続く。

 液晶パネル向けの耐電防止膜、ITO膜といった薄膜形成を手がけているジオマテックも、その一社。需要減や中国勢の台頭で、近年は3期連続の最終赤字と苦しむ。ポートフォリオ改革に取り組むなか、有望な新事業がこのほど立ち上がった。要となるのが薄膜形成技術。長年にわたって同社の経営を支え、大手スマホブランドに認められてきたコア技術だ。

 今年初めに、ジオマテックと三井金属が次世代半導体チップ実装用特殊ガラスキャリア「HRDP」の事業化を発表。ジオマテックの株価は4日間で約3倍に急騰した。同ガラスキャリアは先端半導体パッケージのカギを握る技術で、ジオマテックはガラスキャリアに薄膜の機能層を形成する。

 コア技術を信じ、経営危機を乗り越えた富士フイルム。写真フィルム市場の消滅に直面し、技術の横展開でディスプレイ材料や化粧品などの新事業を生み出した。スピードとダイナミズムがともない、奇跡の大改革につながったと称賛されている。

 JDIは、どうか。スコット・キャロン会長は「JDIには他社がまねできない技術がある。つまり世界トップクラスの人材が集まっている」と、会見のたびに力説してきた。キャロン氏が社長を務めるいちごアセットマネジメントが、JDIに最大1000億円超の支援を行うのも技術に惚れ込んだからだ。

 懸念事項であった白山工場をシャープに売却し、設備を身の丈に合った規模に縮小した。革新技術を、どのタイミングで、どこにライセンスするか。スピードとダイナミズムが勝負の分かれ目となる。

記事・取材テーマに対するご意見はこちら

PDF版のご案内

社説の最新記事もっと見る