今春、日本で始まる5G(第5世代通信)商用サービスに注目が集まっている。これはパブリックエリアでキャリアの公衆網に接続する「WAN5G」。一方でローズドな空間でプライベートに利用できる「ローカル5G」も産業分野での活用が期待される。
 電子情報技術産業協会によると、5Gの世界需要は2020年の7兆9000億円から、30年に157兆5000億円と約20倍に拡大する見通しにある。中心となるWAN5Gは、昨年からキャリア各社イベントでプレサービスを実施、商用開始に備えてきた。超高速大容量・超低遅延・超高信頼・多数同時接続という特性を生かした新サービスの創出が見込まれる。
 一方、ローカル5Gは企業や自治体が周波数免許を取得し、自営型のネットワークを構築・運用するもの。昨年12月24日に免許申請の受け付けが始まり、19年度中にも交付される。
 ローカル5Gの世界需要は、20年の1000億円から30年には10兆8000億円と100倍超に拡大。とくに日本は、20年の60億円から年平均70%以上のペースで成長し、30年には216倍の1兆3000億円に拡大すると予想されている。
 従来あまり無線化されていなかった工場をはじめ農業、期間限定で設営される建設現場やイベント会場、病院などでローカル5Gの導入が期待される。日本ではロボットやドローン、自動運転車などのIoT(モノのインターネット)機器や、製造分野向けのソリューションサービスで需要が見込まれる。
 WAN5Gのエリアは順次拡大が進むが、全国で面的な広がりが確保されるには、まだまだ時間を要する。なかには2~3年かかる地域もあるだろう。こうした地域で、いち早く5Gを活用するため自ら免許を取得するなどしてローカル5Gの活用が進む可能性もある。
 国内の工場には、無線通信の信頼性やセキュリティに対する不安からIoT導入などに抵抗のあるところも、まだ多い。しかし今から対応しようと思っても、既存の工場内に有線のケーブルを敷くのは手間やコストがかさむ。大量のIoT機器を設置し、データを取得、分析するにはローカル5Gを含む無線通信が必須だ。
 化学をはじめとした日本の製造業は、高経年化したプラントを数多く抱えている。セキュリティの確保を大前提に、ローカル5Gを活用したデジタルトランスフォーメーション(DX)により生産性向上や保安の高度化、効率化を図る必要がある。引き続き競争力の維持・強化に積極的に取り組んでほしい。

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