化学業界でも親子上場解消の動きが加速している。新型コロナウイルスの感染拡大が収まらず、世界経済が混迷を極めるなか、各社は企業統治のリスクを低減しつつグループ力を結集、成長領域攻勢に向けた準備を整える構えだ。ただ化学業界は、子会社が極めて独自性の高い製品や技術を持つケースも少なくない。経営の独自性が阻害され製品や技術の競争優位性に悪影響が及んでは本末転倒である。親会社はシナジーを真に発揮させる経営手腕が求められる。

 一般的に日本の企業は、欧米に比べ上場子会社を保有する割合が高く、海外投資家から「少数株主利益が保護されない状況が生まれやすい」など厳しい指摘を受けてきた。また子会社による不祥事など企業統治の観点からリスク低減が求められ、親子上場を解消する動きが化学業界にも広がりつつある。

 しかし化学の場合は、企業統治という守りの視点も当然あるが、劇的に変化する事業環境に対応するため自らの強みと成長領域を見極め、武器をアップグレードしようとする動きと捉えられる。化学の力で噴出する社会課題の解決に役割を果たし、併せて企業として持続的成長を達成するため、グループ力を結集してシナジーを発揮させんとする意志の表れである。

 先ごろ、三井化学が三井物産と共同で本州化学工業にTOB(株式公開買い付け)を実施すると発表した。両社は現在約27%ずつ株式を保有するが、最終的に三井化学51%、三井物産49%の保有を目指す。

 三井化学は本州化学を傘下に組み入れることによって、フェノールチェーン強化など基盤素材事業の立て直しにつなげると同時に「次のコア事業の一つ」(橋本修社長)に位置付けるICT(情報通信技術)関連材料の拡充を狙う。本州化学は、液晶ポリマーなどの原料であるビフェノールで圧倒的な国内シェアを占めるほか、光学レンズ向けの特殊ビスフェノールなど多様なスペシャリティケミカルを展開しており、研究開発力の高さに定評がある。

 三井化学は今年8月、東証1部上場のアークを完全子会社化しており、本州化学の連結子会社化で上場子会社はなくなる。一方、いぜん多くの上場子会社を持つ化学企業もある。大手では住友化学が大日本住友製薬、広栄化学、田岡化学工業、神東塗料、田中化学研究所などを抱える。住友化学の岩田圭一社長は「ガバナンスは効いており、手を入れる考えはない」としているが、ヘルスケアやICTなど重点分野を強化するため検討課題に浮上する可能性はあり、動向が注視される。続きは本紙で

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