2021年は設備投資を増やす欧米化学企業が少なくない。新型コロナウイルスの感染拡大が世界経済に甚大な影響を及ぼした20年は、多くの企業が流動資産をできるだけ手厚くする取り組みを徹底した。設備投資計画の見直しは、そのための主要な手段の一つだった。今年は様相が変わるものの、投資案件を厳選する姿勢を引き続き徹底しいることに注目したい。

 ダウのジェームズ・R・フィッタリング会長・CEO(最高経営責任者)は21年第1四半期の業績を発表したオンライン会見で、21年の設備投資額が16億ドル(約1730億円)を上回る水準になることを表明した。前年より20%以上多い水準だ。

 成長に向けた設備投資を増やす方針を明確にしたといえる。ただフィッタリングCEOが強調したことは、より回収が早いプロジェクトへの投資に集中することだ。その例として挙げたのは今年の成長に着実に寄与する案件である、米国メキシコ湾岸で今年第1四半期に立ち上げたポリエチレングリコールの生産能力増強への投資である。

 米国企業では21年、セラニーズが前年の3億6400万ドルから4億5000万~5億ドル規模に、イーストマン ケミカルが前年の3億8300万ドルから5億~5億2500万ドル規模に、それぞれ設備投資額を増やす方針を明らかにした。セラニーズは市場動向を見極めるための徹底した調査を経て、酢酸と誘導体やエンジニアリングプラスチックの生産体制を強化する投資に踏み切るなど、投資案件を厳選する姿勢を崩していない。

 欧州企業では、BASFの21年の設備投資額が前年より約25%増えて36億ユーロ(約4700億円)に達する。このほかコベストロが約14%増の8億ユーロ規模、ソルベイが約23%増の最大7億5000万ユーロを計画している。前年実績を上回る設備投資を実行するものの、BASFの今後5年間の計画に代表されるように、やはり投資内容を精選する姿勢に変わりない。

 BASFは21年からの5年間で229億ユーロを設備投資に向けるが、20年からの5年間に比べて低い水準になる。229億ユーロのうちアジア太平洋地域に41%を投じる方針で、選び抜いた案件に集中する戦略が色濃い。

 同社は20年の業績発表に際して、コロナ禍による急激な景気後退を経て21年は世界経済が回復すると期待しているが、今後も非常に不透明な状況が続くとの見通しを示した。いぜんとして事業環境が厳しく不確実な経済情勢であるなかで、厳選した設備投資を進めることは不可欠だ。同時に情勢の変化に合わせた柔軟な対応もカギを握る。

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