農産物・食品の輸出が順調に伸びている。輸出額が2021年1~11月累計で初めて1兆円台に乗った。農林水産省は、21年度補正および22年度の予算に輸出拡大のための施策を盛り込んでおり、シームレスな事業展開により加速度を上げ、政府目標の25年2兆円、30年5兆円の達成を目指していく。22年は、前半に新型コロナウイルスの変異株による感染拡大、それにともなう物流の混乱などの懸念材料はあるものの、一方で各国でワクチン接種や経口薬の普及が進むと考えられる。また円安傾向のなか、ドル建て取引も量的拡大につながり、輸出は比較的順調な推移をたどると予想される。

 輸出拡大に向けては、マーケットインの発想を前面に、官民一体となった海外での販売力の強化、輸出産地育成による生産力の強化、国際的な食品安全規格対応の加工施設づくりにつながる施策を推し進める。昨年、輸出額が伸びたのは中国や米国の経済回復が背景にある。和牛肉、日本酒、鶏卵、リンゴ、ブドウ、イチゴ、柑橘、ホタテ貝、真珠などの伸びが前年に比べ著しい。

 政府の「農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略」(20年11月策定)は、昨年12月に改訂版が公表され、柿などを加え輸出重点品目が28品目、1287産地・事業者を選定した。品目ごとに輸出促進を企画・アピールする品目団体の認定制度の創設、22年国会への輸出促進法改正案提出などが予定されている。

 海外での日本産農産物・食品の需要が伸びるとなると、容器や包材や、その原料を供給する化学業界にも事業拡大のチャンスが回ってくるだろう。鮮度を保持しながら迅速に送り届けることが可能で、しかも安全性に優れ、トレーサビリティに対応した、トータルソリューション型のシステムが求められる。自社の強みと不得意な部分を補完するために、どのような異業種と組むのか、戦略の質が新たなビジネスモデル構築のカギを握っている。

 また輸出の拡大には、天候不順による農産物の不作や魚介類の不漁による海外向け供給量を安定的に確保できるのか、といった課題を克服せねばならない。農業や水産業の輸出産地がメカトロ技術、人工知能(AI)・ICT・IoTのデジタル技術を巧みに組み合わせ、スマート化しやすくする環境を一体的に整備していく必要がある。さらに食材の輸出だけでなく、輸出国の食文化にあった美味しさを引き出す調理法の開発、輸出先の国・地域で活躍できる日本人調理師を増やすことも農産物・食品の輸出拡大推進の重要な要素といえる。

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