今月、化学大手2社が相次いで社長交代を決めた。三井化学と積水化学工業である。奇しくも2社とも売上高・営業利益を2倍に引き上げる長期目標を掲げており、新社長に目標達成が託された。世界は米中対立や新型コロナウイルスなど先が読めない事象が続き、事業環境は厳しくなる一方。バトンを受けたリーダーには容易ならざる現実が待ち受けよう。足元ばかり見ていては進む方向を誤り、遠くばかり見ていてはつまずく。全方位をにらみながら足元の課題を乗り越えつつ、同時に長期目標達成に向けた礎を作る-。そんな辣腕が求められる。
 化学業界は2016年度から18年度の前半まで好況を謳歌した。中国の環境規制強化などを背景に石油化学品の供給がひっ迫して市況が高騰したほか、この10年間ほど、ポートフォリオ改革の下で育成に力を入れてきたスペシャリティケミカルが大きく成長したためだ。だが神風は止み、米中対立や新型コロナウイルスという狂風が世界を襲い、経済情勢は一変した。
 しかし三井化学、積水化学の両社は、これまでも難局を乗り越えてきた。積水化学は1997年の消費増税などで住宅事業が不振となり、98年度に初の営業赤字を計上。00年度、01年度も営業赤字を余儀なくされた。99年就任した大久保尚武社長以降、3代にわたり構造改革と新事業拡大に努め現在、最高益更新を続けるまでに復活した。
 三井化学も11年度から3期連続して最終赤字だった。14年に背水の陣で就任した淡輪敏社長は、基礎化学品の合理化と成長3領域の拡大というポートフォリオ改革を進め、初めて営業利益1000億円を突破するなど業績回復を成し遂げる。
 この間、両社とも複数のM&Aを行った。三井化学は13年に独社の歯科材料事業を約540億円で買収。18年には自動車開発支援のアークを約300億円で傘下に収めた。淡輪氏の社長就任以前に買収した歯科材料のクルツァーが損益立て直しを余儀なくされ、今回新社長に就く橋本修氏が事業本部長として収益安定化を図った経緯がある。一方、積水化学は不燃材のソフランウイズ、放熱材のポリマテックなどを買収。さらに昨年、米航空機部品のAIMエアロスペースを約560億円で子会社化した。これは積水化学最大の買収案件となった。
 ただ両社とも1000億円を超える大型M&Aは、これまでない。三井化学は日立化成の買収を検討したが断念した。両社とも売上高・営業利益を2倍にするには大型M&Aが不可欠。逆境に挑む新たなリーダーの辣腕に注目したい。

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