化学物質の安全性に関する日本化学工業協会の研究助成制度である「LRI」(長期自主研究)。このほど新規委託課題を採択、2020年度の研究活動をスタートした。新たに採択したのは、毒性発現メカニズムを考慮した毒性予測手法、小児への化学物質の影響評価、マイクロプラスチックの環境リスク評価に関する6件。今回も化学物質安全を取り巻く環境の変化を捉えたテーマを取り上げた。

 LRIは、化学物質が人の健康や環境に及ぼす影響に関する研究を長期的に支援するもの。日米欧の化学業界が連携して進めており、日本では日化協が00年に開始した。12年度に運営方針などの抜本的見直しを行っており、現在は「新規リスク評価手法の開発と評価」「ナノマテリアルを含む、新規化学物質の安全性研究」など5分野で研究が取り組まれている。

 見直しの背景には、REACHをはじめリスク評価に基づく包括的な規制が相次いで導入され、化学物質の安全性の根拠が従来以上に厳しく求められる時代が到来したことがある。研究テーマを広く公募する従来のLRIは基礎的な研究に偏り勝ちで、産業界の課題解決に役立つ研究が少なかったという。このため日化協が早期対応を要する課題を示し、課題解決型の研究を推進する体制に改めた。

 さらに18年度には、研究テーマだけでなく、研究の範囲も具体的に提示して課題を募集するスタイルへ変更した。より社会ニーズを反映した研究内容とすることが目的で、会員企業へのヒアリングも踏まえてテーマを設定。動物実験代替法やマイクロプラに関する研究を重点的に採択してきた。20年度の研究課題は6つの研究テーマについて募集し、応募のあった35件の中から6件を採択した。

 ポイントは「小児における化学物質の影響の評価」に関する研究が4件あったこと。胎児から小児にかけての期間は、成人に比べ環境要因に対する感受性が高い。子供の健康と環境に関する疫学調査が進む一方で、科学的に十分精査されずに公表されれば混乱を引き起こすことも懸念される。このため生命の発生・発達期における化学物質の影響について適切な評価法の開発が求められていた。

 LRIの主眼は「社会ニーズへの対応や業界が抱える喫緊の課題解決」。化学物質の安全性に関する研究は成果が出るまでに時間がかかるが、ここ数年で化学品管理に役立つツールが相次いで誕生している。12年度の改革が実を結んだと言えるだろう。毒性予測、マイクロプラ、小児影響という近年の重点テーマの進展も期待したい。

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