カーボンニュートラル実現に不可欠な技術であるCO2回収・利用(CCU)は、CO2回収、カーボンフリー水素の製造・貯蔵・輸送、CO2と水素を反応させて製造する炭酸塩、さらに燃料、化学品を製造する利用分野など、多岐にわたる技術の実用化が不可欠だ。官民を挙げての技術開発・実証が進む一方で、社会実装の道筋がなかなか見えてこないのが実情だが、持続可能な航空燃料(SAF)は現状、数少ないドライビングフォースといえる。SAFを突破口としてCO2を回収し利用する社会システムの実現を期待したい。

 政府のグリーンイノベーション(GI)基金事業などを活用して網羅的に開発・実証試験が進められており、どの技術も2030年、あるいはそれ以降という期限を区切ってみると実現可能性は高いように思われる。しかしCO2由来製品の高いコストを、誰がどのように負担するのかに関して合意ができなければ、社会実装は進まない。例えば東京ガスは、合成メタンを30年に1%導入するとコミットしているが、努力目標にすぎず、実現には制度設計による支援も必要としている。

 これに対してSAFは、27年に始まる国際航空のためのカーボンオフセット・削減スキームが開始されることを見据え、欧米を中心に導入が広がりつつある。国によっては導入義務化の動きもある。国際ルールとなれば、対応なしには日本の航空会社は欧州に乗り入れできなくなる。

 政府は4月22日、SAF導入促進に向けた官民協議会を立ち上げ、生産・供給およびサプライチェーン構築に向けた検討を開始した。SAFには、バイオエタノールなどから製造するATJ(アルコール・ツー・ジェット)、廃食油を利用するバイオディーゼル、都市ごみや木材を原料とするFT(フィッシャー・トロプシュ)合成油、微細藻類などを用いたバイオディーゼルなどがある。それぞれの技術で作られたSAFは、実機の飛行にも成功している。

 各プロセスとも原料確保、コスト低減といった課題はあるが、コスト高でも量の確保が求められる状況は、他のCO2由来製品にない有利な点といえる。日本航空、全日空は30年に航空燃料の10%をSAFに置き換える方針だが、両社合わせ100万キロリットル必要となる。日本に乗り入れる海外キャリアへの給油にも対応しなくてはならない。

 どのプロセスも、SAFだけでなく燃料一般、化学品原料などに応用展開可能だ。SAF向けに競争力あるサプライチェーンを確立できれば、CCUプロセス全体の実現可能性も一躍高まるだろう。

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