DSMは、エンジニアリングマテリアルズ事業の売却とフィルメニッヒとの合併を決めた。これによって事業転換が新たな段階に入ることになる。

 DSMは、オランダ南部のリンブルフ州の石炭を採掘することを目的に、同国政府によって1902年に設立された。設立当時の「Nederlandse Staatsmijnen」の英語訳である社名「Dutch State Mines」を使い続けてきたが、歴史を振り返ると時代に合わせて事業を組み替えてきたことが分かる。

 1919年にコークス炉ガスを利用した肥料事業に参入したことから事業転換は始まった。52年にカプロラクタムの生産を、59年にポリエチレンの生産をそれぞれ開始、石油化学事業の拡大に乗り出した。一方で73年には同社にとって最後の炭鉱を閉鎖、創業時の事業である石炭から撤退した。

 株式市場への上場を果たした89年から事業転換のスピードが増していく。石化事業から撤退し、ビタミンやオメガ3多価不飽和脂肪酸などを手掛ける企業を買収。肥料やメラミン、カプロラクタム、エラストマーなどの事業から手を引いた。

 このほど売却を決めたエンジニアリングマテリアルズ事業は、ポリアミドや特殊ポリエステルなどが主力で「Akulon」「Stanyl」「Arnitel」といったブランドの知名度が高い。合併するフィルメニッヒは香料大手で、ファミリー企業としては最大手。130年近い歴史を誇り、高い収益性を維持してきた。売却・合併発表の5月31日以降、DSMの株価は140ユーロを上回っており、株式市場から好意的に受け止められていると判断できる。

 DSMは、これまで石炭採掘企業から化学企業へ、国営企業から民営企業へという歩みを経て上場後に健康、ニュートリション、機能性材料のグローバル企業へ変わった。今回の売却・合併が具体化すると、機能性材料から撤退し健康、ニュートリション、美容の各分野におけるイノベーションパートナーとして躍進を目指すことになる。

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