社会のあらゆる場面においてDX(デジタルトランスフォーメーション)の加速が求められている。企業トップも年頭あいさつでDXやデジタル化に言及するなど、経営の最重要課題の一つになっている。

 経済産業省は昨年末に「DXレポート2」という中間報告書を公表した。コロナ禍で浮き彫りになったDXの本質や、日本企業がDXを加速するために取るべきアクション、政府の対応策などが書かれている。2018年の「DXレポート」では、既存システムがDX推進の障壁となることに警鐘を鳴らし、さまざまな施策で計画的に推進を促してきた。しかしIPA(情報処理推進機構)による約500社を対象としたDX取り組み状況の分析をみると、9割以上が取り組みに未着手か、始めたばかりであることが分かった。コロナ禍による環境の変化に対応できた企業と、できなかった企業の差が広がっている。

 DXレポート2は、企業の目指すべき方向として「素早く」変革「し続ける」能力を身に付けること、そのなかでITシステムだけでなく、企業文化など固定観念を変革することが重要と指摘。具体的なアクションとして業務環境のオンライン化や業務プロセス、従業員の安全・健康管理、顧客接点のデジタル化などを挙げた。

 DX推進に向け、短期的には関係者間の共通理解形成や経営層の役割・権限などの明確化、遠隔でコラボレーション可能なインフラ整備、業務プロセスの再設計などの対応が必要。中長期的にはITベンダーとも連携し、デジタルプラットフォームの形成や変化対応力の高いITシステムの構築、DX人材の確保などを求めている。

 とくに経営者には、経営とITは表裏一体との認識を持ち、DXに向けた戦略を立案する必要があるとし、取り組み領域やアクションを検討する手がかりとなる「DX成功パターン」の策定を訴えている。

 同パターンはDXを3段階に分解。例えば製造業では、製造装置の電子化(デジタイゼーション)、製造プロセスの仮想化(デジタライゼーション)、製造の遠隔化(デジタルトランスフォーメーション)。これにより生産性向上やファーストロット生産までの時間を短縮、技術者の移動なしに顧客に近い拠点で生産し、短納期を実現する。

 政府が今秋設立するデジタル庁は、行政だけでなく日本全体のデジタル化を推進するための司令塔と位置づけられている。政府の後押しも得つつ、日本の企業が固定観念を打ち破り、DXでさらに競争力を強化する年となることを期待したい。

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