昨今、専門商社では、海外駐在員のホームシック対策などのメンタルケアが重要な課題となっている。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大と長期化で、いわゆる「コロナ鬱」を発症する駐在員がいるためで、その対策が必須といわれている。国によって状況は異なるが、現地での訪問営業がほぼなくなり、ウェブでの商談が中心になっている国もあるという。通常、同業他社も含めて現地の情報交換を行うことも多いが、現在は「三密」を回避するため会食の機会も減少。そのため正確な情報を得る機会が減ってしまう。外出も含めたさまざまな規制から明日の買い物に至るまで、情報が少ないことで不安は増す一方となる。

 日本からのスタッフ出張も抑制されているため、日本国内の情報や社内の情報も得にくくなり、孤独感が増していく。感染が拡大した2020年初春から、駐在スタッフの日本への帰国を控えた企業も多い。帰ろうと思えば帰れる状況から、いつ帰れるか分からない状況となり、心理的にも追い詰められていく。

 専門商社の海外ビジネスでは、日系企業のサポートをメインとする企業が多い。商材の調達・提供はもとより顧客の痒いところにも手が届くような、ニーズをくみ取ったソリューション提案が重要となる。そのため海外拠点の駐在スタッフは、知見の豊富な中堅社員や働き盛りの単身者が赴任するケースが多い。

 ある企業では、海外事業を統括する役員が毎朝、時差を超えた「オンライントーク」を各拠点と設定し、心のケアに当たっている。「本社から各拠点への出張ができないなか、むしろ海外事業の管理職にとって重要な業務」になっているという。

 また日本製の食品・日用品を求めるスタッフへ、輸送費を会社側が負担する企業も出ている。北米に拠点を持つ化学品商社では「コロナ禍で海外駐在のリスクやスタッフの生活コストにも目を向けた」そうだ。正式な社内制度への組み込みも検討しているそうだ。週末にオンライン飲み会を設ける企業もある。会食もカラオケもできないなかで苦肉の策かもしれないが、少しでもストレスが解消できればとの思いだろう。

 専門商社は、メーカーと違い、製品を生産していないこともあって、しばしば「人材は人財」といわれる。ある人材派遣会社では、コロナ禍による海外駐在員のメンタルケアをサポートするセミナーを開催している。しばらくはウィズコロナの時代が続きそうだ。行政サイドも、もう少し海外駐在員の心のケアに目を向けた支援を行う必要があるのではないだろうか。

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