【バンコク=岩﨑淳一】タイの化学産業は、新型コロナウイルス感染再拡大の影響で回復鈍化の懸念が広がっている。主要な需要家である自動車業界は、2020年11月の自動車生産台数が19カ月ぶりに前年同月を上回るなど改善していたが、感染第2波による社会経済活動の制限で景気悪化し、21年の早い段階でブレーキがかかる可能性が出てきた。また、飲食店の営業などは前回の感染拡大時ほど厳格に規制していないため、食事の宅配・持ち帰り増加にともなう包材関連の特需も望めそうになく、化学企業の事業環境に不安感が漂っている。

 タイ工業連盟(FTI)が発表した20年11月の自動車生産台数は、前年同月比11・9%増の17万2455台で、19年4月以来19カ月ぶりに前年同月を上回った。自動車関連に製品を提供する化学・素材メーカーの生産・販売量も好調に推移。20年12月は年末休業する完成車工場もあったが堅調さは維持し、年間生産台数は140万台に達したもよう。

 21年第1四半期(1~3月)は前年同期と同程度の水準で推移するとの見方が強かった。しかし、昨年末からのタイの新型コロナ感染再拡大で減速の可能性が高まっている。

 昨年の感染第1波では、4~5月に完成車工場が操業を一時停止し、化学・素材企業も大きな打撃を受けたが、今回は各社「受注があり操業は継続」(在タイ日系自動車)している。ただ、20年後半の自動車生産の回復は国内向けの伸びが牽引しており、コロナ禍にともなう活動制限で景気が悪化し内需が鈍化する恐れがある。業界関係者によると21年の自動車生産台数は160万台程度との予想が出ているが、先行きは不透明だ。

 自動車以外も明るい材料が乏しい。昨年急増した包装資材の需要も大きな増加を見込めそうにない。

 タイは20年3月に商業施設の閉鎖などを盛り込んだ非常事態宣言を全土に発令した。レストランでの飲食も禁止されたため、持ち帰りやデリバリーなど宅配需要が急拡大し、プラスチック食品容器・包装の使用が増加。食料品宅配関連の1日当たりのプラ消費量がコロナ禍以前に比べ約15%増えたとの試算も出ている。包材関連を手がける化学企業も追い風を受けた。

 同様に容器・包装の特需を期待したいが、現状、バンコクでは夜間のレストラン内での飲食を禁止するといった措置がとられ、昨年よりも制限は限定的だ。「今年は旺盛な需要は見込めないだろう」(現地食品包材企業)と嘆く声も聞かれる。

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