化学工業日報社が主要な化学企業の社長を対象に実施したアンケート(回答50社)では、コロナを乗り越えて、10年後の2030年に社会はどうなっているのか、その時に自社の姿をどう描いているのかを聞いた。10年後の社会はデジタル化が加速しているほか、ゴール年となるSDGs(持続可能な開発目標)の取り組みに対する社会の要求は強まる。10年後の自社の姿については、各社が定めている長期ビジョンに沿った目標達成を見通す。コロナ禍により生じるさまざまな環境変化に柔軟に対応し、新たなニーズを取り込んだ製品開発を進めていきたいとの意志も込められた。

 30年の社会では、デジタル化、IoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)の進展を見込む回答が多かった。とくにデジタルトランスフォーメーション(DX)の急速な発展を想定する。製造現場へのDXが進み、「収集した情報データを使ってクリエイティブな仕事をすることが人間の大きな役割となっている」とAGCの島村琢哉社長は予想。住友化学の岩田圭一社長は「AIが電気やガス、水道のように社会の共通インフラになり、化学産業もAIを利用した産業に生まれ変わりつつある」と見通した。

 エア・ウォーターの白井清司社長はIoTなどの普及により「出社を前提としない営業活動などが一般化する」と働き方改革が進展すると指摘。テレワークが普及・定着することで「より広い地域の企業間との連携が活発になっている」(日本化学工業の棚橋洋太社長)など、地域を問わない協力体制の進展にもつながりそうだ。

 30年は国連が定めるSDGsがゴール年を迎える。ユニチカの上埜修司社長は「社会面への貢献が企業としてますます求められる」と見通す一方、デンカの山本学社長は「SDGsとの乖離が大きい企業は投資の対象として見向きもされなくなるだろう」と企業経営の基本になると指摘する。

◆その時 自社の姿は- 変化捉え価値生み続ける

 30年における自社の姿として、長期ビジョンで掲げる10年後のあるべき姿に近づいているとの期待感が大きい。富士フイルムホールディングスの助野健児社長は「社会課題の解決のため、世の中に新たな価値を提供し続け、変化を創り出す企業となる」との方針を貫く。新たなビジョンを策定中の企業は、現状を含めコロナにより変化する市場環境・消費者ニーズを想定したうえで成長戦略を示していく。

 社会構造や消費者ニーズが変化し、それに対応した製品開発を重視する意見は多い。「成長分野における独自商品や環境問題に貢献できる商品の開発を不断に進める」(日鉄ケミカル&マテリアルの榮敏治社長)と、安定的な収益を確保し持続成長を図るためにも開発力はカギを握り続ける。

 サステナビリティ(持続可能性)への取り組みも重視される。ADEKAの城詰秀尊社長は「経営とCSRの一体化を推し進め、本業を通じた社会課題の解決に貢献していく」と、10年後の社会から求められる企業像を見通す。日立化成を買収した昭和電工、来年4月に経営統合する日本触媒と三洋化成は、それぞれのシナジーを発揮し、理想の実現を目指す。

<コロナを経て、2030年の社会は?(抜粋)>
◆デジタル化、AIなどが加速
・DXが加速し高度なデジタル社会が実現している。人の関与を極力減らしたスマートファクトリー化を進めるために企業の壁を越えた連携社会が実現している(三菱ガス化学・藤井政志社長)
・AIの社会全般への適応が本格化し、バイオテクノロジーの進歩とともに健康や仕事をAIが日常的に支援する社会が広がっている。国内では少子高齢化社会が新たな局面を迎え、労働力の多様化にともなうITデバイスを介した自動監視も始まっているであろう(JNC・山田敬三社長)
・DXの進展は加速する一方、民主主義は変容を迫られる(宇部興産・泉原雅人社長)
・IT技術を中心としたテクノロジーの進歩によって、人の行動様式、価値観、志向など社会も変化していくことになろう(日油・宮道建臣社長)
・DXの重要性、利便性が強く認識され、世界的に急速に進化しデジタル社会を構築している。これにより医療、ヘルスケアシステムの高度化が進んでいると予想する(三菱ケミカルホールディングス・越智仁社長)
・製造拠点においてはDXが進み、AIやIoTを駆使して情報の収集作業を機械に任せて、収集した情報データを使ってクリエイティブな仕事をすることが人間の大きな役割となっている(AGC・島村琢哉社長)
・製造工程にIoTを導入した工場、遠隔医療、出社を前提としない営業活動などが一般化する(エア・ウォーター・白井清司社長)
・コロナ禍を契機にデジタル革新の進展は加速するだろう。AIが電気やガス、水道のように社会の共通インフラになり、化学産業もAIを利用した産業に生まれ変わりつつあるのではないか(住友化学・岩田圭一社長)
◆社会への貢献、SDGsさらに重視
・デジタル化が一層の進展を遂げる中、SDGsへの貢献や地球環境への対応など、社会面への貢献が企業としてますます求められる社会になると想定される(ユニチカ・上埜修司社長)
・2030年はSDGsのゴール年となる。コロナ禍の警鐘により、サプライチェーンがより合理的に整備されているはずだ。BtoB、BtoCの流れがデジタル・バリューによりCtoBに変わる。そこにあるメーカーの重要性が見直されよう(第一工業製薬・坂本隆司会長兼社長)
・社会は企業に対して、規模の大小にかかわらず社会の一員としてより深く人々の生活に関わり、直接的な対話を通して社会課題を認識し、持てる発想や技術を駆使してその解決策を提供する役割を求めているであろう(DIC・猪野薫社長)
・コロナ禍の影響含め、世界が大きく変わろうと素材の必要性は変わらない。ソリューション・プロバイダーとしての化学産業に対する社会からの要求や期待は、ますます大きくなるものと期待している(三井化学・橋本修社長)
・SDGsとの乖離が大きい企業は投資の対象として見向きもされなくなるだろう。プラスチックリサイクル、再生エネ、大気汚染など環境問題へのソリューションが提供できるかどうかがより一層問われるようになる(デンカ・山本学社長)
・SDGsに代表される「地球」「人」「環境」に配慮した持続可能な社会の実現を目指す姿勢と努力が一層求められる時代になっている(荒川化学工業・宇根高司社長)
◆テレワークが普及・定着
・コロナ禍で多くの企業が否応なくテレワークに取り組まざるを得ない。その結果、職場でのデジタライゼーションが一層加速する(石原産業・田中健一社長)
・テレワークの普及により人の移動機会が減少し居住地は分散、女性の社会活動機会は増加する。また、製造、流通、小売、決済の自動化・無人化が進むなど多くの場面でオンライン活用が加速、情報機器、通信事業分野が高度化している(日産化学・木下小次郎社長)
・テレワークが定着し、社内の会議はもとより、社外の打ち合わせもオンラインで容易にでき、より広い地域の企業間との連携が活発になっているだろう(日本化学工業・棚橋洋太社長)
◆社会課題への対応強化
・私たちが伸ばそうとしている「環境価値」「安心・安全・防災」「少子高齢化・健康志向」の3つのソリューションに対する社会の期待は何も変わらず、その価値がさらに求められる(帝人・鈴木純社長)
・温暖化などの環境問題、高齢化社会進展による年金などの社会保障問題、エネルギーや食糧問題など、人類が抱える社会課題は多々存在する中、世界各国のリーダーが自国中心主義を越えて協調し、そうした課題に取り組む世の中になっていてほしい(日本ペイントホールディングス・田中正明会長兼社長CEO)
・消費者は環境に配慮した製品を選択することが優先となるため、こういった要望に応える素材というチャンスができる(大阪ソーダ・寺田健志社長)

<2030年における自社の姿は?(抜粋)>
◆ビジョンを遂行
・「長期ビジョン」において構造改革を推進し、時代に沿った変革を成し遂げている(日本曹達・石井彰社長)
・今後10年間程度を見据え、産業の潮流の変化を的確に捉えて「ビジネスモデルの変革」を進めながら「持続的かつ健全な成長」を実現するための統一指針として長期経営ビジョンを策定した。持続的に収益を拡大し、全てのステークホルダーにとって高い存在価値のある企業グループであり続けるための道標である(東レ・日覺昭廣社長)
・「炭素で社会を支えるグローバル企業」としてグローバル化、デジタルイノベーション、持続可能な社会の実現に貢献する企業(東海カーボン・長坂一社長)
・現在、全社的に「ありたい姿」を再構築している。企業ビジョンを実践し、お客様や株主の皆様、そして従業員やその家族を含めて、すべてのステークホルダーが幸せやうれしさを実感できるように、お手伝いができる会社でありたい(日本化薬・涌元厚宏社長)
・長期ビジョンで示したとおり、ESG経営の実践により、社会課題解決への貢献を拡大することで業容を倍増し、魅力を増した企業となっている。従業員一人ひとりが社会課題解決の主役として参画し、次の時代に向けて新たな挑戦を続けている(積水化学工業・加藤敬太社長)
・2020年からスタートした中計で、明確に経営の新しい柱「第4の柱」を育てることを打ち出した。それについては組織的にも、個々の動きについても、従来の当社にはみられなかった対応をしつつある、と考えている(東亞合成・髙村美己志社長)
・2030年をターゲットとしたCSR計画のもと、「環境」「健康」「生活」「働き方」「サプライチェーン」「ガバナンス」を企業活動全体で取り組む6分野と定めている。社会課題の解決のため、世の中に新たな価値を提供し続け、変化を創り出す企業となる(富士フイルムホールディングス・助野健児社長)
・今年度は中期経営計画の最終年度にあたり、2021年度を初年度とする次期中計を策定中。そのなかで、10~20年後の社会とそのなかにおける当社グループのありたき姿を描いているところである(保土谷化学工業・松本祐人社長)
・新長期ビジョンで示した新しい企業集団の実現に向けて、IoTやAIを積極的に活用したバーチャルカンパニーを展開し、ウィズコロナを含めたさまざまな環境変化にスピーディかつフレキシブルに対応できる組織への変革を進める(ダイセル・小河義美社長)
◆製品開発に磨き
・当社独自の差別化された技術で社会に貢献する製品を開発し、事業化していくことに拘り、重点投資していく。そして世界・1、オンリーワンの技術・製品を有し、高付加価値を生み出している(クレハ・小林豊社長)
・社会に役立つ製品を開発していく、社会基盤を支える素材を安定的に供給するという役割は変わらない。働き方を変え、生産性を上げ、同時に生活の充実が図られる会社としていきたい(丸善石油化学・鍋島勝社長)
・選択と集中を進め、成長分野における独自商品の開発や環境問題に貢献できる商品の開発を不断に進め、安定的な収益体質を堅持できる企業でありたい(日鉄ケミカル&マテリアル・榮敏治社長)
◆社会への貢献さらに
・サステナビリティ、DX、ライフサイエンスでの事業を中心に新たなモノづくり企業として世界に貢献する。事業のみならず経営面でもグローバル化が進んでいる(東洋インキSCホールディングス・髙島悟社長)
・10年後もガスビジネスを通じてモノづくりを支えるという事業の基本は変わらないが、人々が安心して暮らせる持続可能な社会の実現に向け、さまざまな課題の解決に貢献できるようになることを目指していく(大陽日酸・市原裕史郎社長)
・2つのサステナビリティ(持続可能な社会の構築への貢献と、当社グループの持続的な企業価値の向上)の実現に向けて取り組んでいる(旭化成・小堀秀毅社長)
・たとえ、新たな環境下でGAFAに牛耳られても、人間の本質(衣食住)は不変。当社はニューノーマルに適合し、社会貢献に合致するプラットホームに加わり、われわれの素材なしでは成り立たない市場を一つでも多く獲得していく。経営とCSRの一体化を推し進め、本業を通じた社会課題の解決に貢献していく(ADEKA・城詰秀尊社長)
◆統合シナジーを実現
・単なる素材売りではなく、社会課題の解決に向けた「機能」「価値」を確実に提供でき、社会に貢献できる、化学技術を基盤とするグローバル企業「Synfomix」となっていたい(日本触媒・五嶋祐治朗社長)
・日本触媒との経営統合を経て、新会社「Synfomix」となっている。三洋化成の強みである顧客課題に応えるソリューションビジネスと、日本触媒の強みである競争力ある素材のバリューチェーンを融合した、グローバルに存在感のある化学メーカーの実現を目指している(三洋化成・安藤孝夫社長)
・当社と日立化成が統合することで半導体やモビリティーなどの分野で製品群の厚みを増し、川上と川下でサプライチェーンを統合して「ワンストップ型の先端材料パートナー」と「世界トップクラスの機能性化学メーカー」を実現し、GAFAのような巨大なプラットフォーマーのパートナーとなれる化学会社になる(昭和電工・森川宏平社長)

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