中国では今、新型コロナウイルスの感染拡大が一定に落ち着き、中央政府が傷んだ経済の立て直しに躍起になっている。進出する日系企業も市場回復に合わせて反転攻勢をかけたいところだ。ただ当局は危険化学品の取り扱いや大気汚染対策に関する規制の手綱を緩める気配はない。生産現場では抜き打ちの監査が頻発している。企業は気を緩めることなく、政府の動きを見極める必要がある。
 浙江省の高速道路で13日、液化石油ガス(LPG)を積んだタンクローリーが爆発する事故が起き、20人近くが死亡、170人以上がけがをした。中国メディアによると、爆発したローリーを所有する企業は、安全管理を巡り過去に10回以上の行政処分を受けていたという。ずさんな対応が周辺の民家・工場を巻き込む大惨事に発展したことに怒りを禁じ得ない。事故後、危険化学品を取り扱う日系商社や物流企業を当局の担当者が訪れ今一度、予防策を徹底するよう厳しく注文をつけている。
 中国は今年、第13次5カ年計画の最終年を迎え、経済・社会の5年間にわたる発展目標の総仕上げにかかっている。コロナ禍で経済成長率の目標を打ち出すことは断念したが、国民社会を守るための安全生産や環境規制は目標必達の姿勢を鮮明にしている。5月末に開かれた全国人民代表大会(全人代)においても、生態環境部は環境保護を経済活動のためにおろそかにはしないと強調した。
 実際、新型コロナの感染拡大期にも、化学企業の工場の環境査察は実施され、違法行為は厳格に処罰された。江蘇省の日系企業の生産責任者は「工場立ち上げの最中に防護服をまとった担当者が査察に来たときは驚いた」と話す。
 今年も、さまざまな環境規制法案の施行・改訂があるので気を抜けない。とりわけ昨年の塩城(江蘇省)の爆発事故は危険廃棄物のずさんな管理が原因だったと結論づけられており、4月末に出された「全国安全生産専項整頓三年行動計画」では、危険化学品の安全生産および危険廃棄物の日常管理を、さらに強化することが明確にされた。揮発性有機化合物(VOC)対策も今年、オゾン削減のため従来の秋冬に加え、夏場の対策を本格化しており注意を要す。
 コロナ禍では中央政府も生産者支援のために各種手続の簡素化、緩和を行うなど柔軟に対応していることは事実だ。ただ来期始動する第14次5カ年計画でも環境保護、安全生産は重要項目だと強調している。生産現場の責任者は、政府が規制の手を緩めるどころか一層力を入れていくと認識すべきだろう。記事・取材テーマに対するご意見はこちら

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