化学企業はこれまでも海外拠点の現地化、最適化に取り組んでおり、新型コロナウイルス収束後もこの方針に変更はない--。化学工業日報が主要化学企業に実施したアンケートで、約8割がコロナ禍を契機とした海外拠点の見直しを行う予定はないと答えた。ただ、リモート対応など日本からでも指示できるインフラ強化といった面では共通しており、コロナ禍の教訓が大いに生かされる。サプライチェーンについても各社は以前から最適化を進めており、引き続き経営の重要課題として検討していく。

 アンケートでは、新型コロナウイルス感染拡大を受けて駐在員を一時帰国させるなど影響を受けた海外現地拠点について聞いた。9月上旬に実施し、26社から回答を得た。

 コロナ禍で海外への移動が閉ざされ、サプライチェーンも寸断されるなど急速に進んだグローバル化にはリスクをはらんでいることも浮き彫りになった。これを踏まえて海外拠点の方向性を聞いたところ、全体の約8割にあたる21社がこれまでの取り組みや方向性を変更しない考えを示した。

 「従前から最適な技術や立地、パートナー、人材でグローバルに競争力のある事業を展開してきた」とする住友化学は、パンデミックなど不測の事態も想定し、国内外を問わず最適なサプライチェーンのあり方を引き続き検討していく。また、「基本的な方向性は変わらない。再びパンデミックが発生する可能性を踏まえ、それに備えた対策を検討する」(信越化学工業)など、コロナ禍を教訓に体制を整える。

 旭化成なども海外拠点の現地化、サプライチェーンの見直しはコロナ禍以前から検討してきた重要な経営課題であるとし、引き続き検討を進める。コロナ禍を契機とした国内回帰については、原料や顧客・消費地のサプライチェーンを考慮しても考えにくいとの意見が複数あった。成長市場に照準を合わせ現地化に取り組んできた関西ペイントも従来方針を継続する。

 三菱ケミカルは、自国第一主義やコロナによるサプライチェーンの見直しのなか、各国の域内である程度チェーンが完結し、その単位で自律的・機動的に経営判断を行う必要性が高まることから「世界4極に設置している地域統括会社の役割がより重要になる」と指摘する。

 三井化学は今回の事業活動への影響を踏まえて、サプライチェーンや地産地消の強化など必要な見直しを行う予定。デンカは各拠点の駐在員の職務内容を再度吟味し、駐在員の必要性およびさらなる現地化を検討していく方針だ。DICは今後の課題として、海外拠点社員の幹部候補育成の強化、原料のサプライチェーンの見直し、ホームオフィスやスモールオフィス導入などを掲げる。

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 コロナ収束後の海外赴任の方向性を聞いたところ従来通りに戻す予定の企業が多く、「各国・地域の方針に従い、必要性を考慮のうえ判断する」(日産化学)といった回答が多数を占めた。収束後の状況で判断するため現在は未定とする企業も2割以上いた。

 また、「コロナ問題にかかわらず、海外各社のナショナルスタッフの積極的な登用(現地化)は進めている」(東レ)、「コロナ禍を理由とした現地駐在員の削減は計画していない」(クレハ)と海外拠点の体制維持・拡大を図るとともに、「駐在員・出張者の業務を見直し、スタッフの削減を含めて効率化を検討する予定」(日本化薬)など最適な体制を追求していく。

 海外出張についても収束後は各国の規制・方針に基づいて再開する予定の企業がほとんど。ただ、「ウェブ会議を最大限活用し海外出張は減らす方向」(デンカ)、「オンライン会議も定着しつつあり、デジタルツールを活用したうえで従来と異なる運用も考えられる」(日本ペイントホールディングス)、「業務効率化の観点から、テレビ会議、ウェブ会議で対応可能なものと出張が必要なものを明確に区分し実施する」(東レ)など、リモート活用により海外出張自体は多くの企業で減少を見込んでいる。

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