平均寿命が延び続けている日本。50年ほど前の1970年の平均寿命は男性が69・84歳、女性が75・23歳。それが医療技術の進歩などで2020年には男性が81・64歳、女性が87・74歳と、ともに過去最高を更新した。60年には男性84・19歳、女性90・93歳に達するといわれる。

 人生100年時代といわれるなか、認知症への対応がクローズアップされている。東京都健康長寿医療センターによると、人生が80年で終焉を迎えていれば、認知症の出現率は1ケタ%台のところ、80歳を超えた辺りから出現率は高まり、95歳以上の女性では4人に3人ほどと高い割合になる。

 誰もが発症し得る認知症は治療の難しさや介護が必要になるなど、本人だけではなく家族や地域との関わりも大きいため、非常に身近な問題といえよう。長引くコロナ禍による外出自粛の影響で、とくに在宅認知症者の症状悪化も懸念される。

 認知症に関する研究は世界中で進められ、原因や対策についても少しずつ分かってきた。認知機能の維持には早期対策による予防が非常に重要と考えられているが近年、予防策として食の分野に対する関心が高まっている。

 脳と腸は、自律神経などを介して互いに影響を及ぼし合うといわれ、例えば緊張すると腹が痛くなることがある。このように脳と腸が密接に関わる関係は「脳腸相関」と呼ばれる。脳腸相関に着目し、精力的に研究を続けるのが森永乳業だ。

 50年以上にわたって、ビフィズス菌や腸内フローラの研究に取り組む同社。保有する数千株の菌株のなかから、認知機能の一部である記憶力の維持に役立つビフィズス菌を特定している。臨床試験で有用性を確認しており、国際的なアルツハイマー病の情報サイトに唯一のプロバイオティクス(人体に良い影響をもたらす微生物)素材として紹介された。

 量子科学技術研究開発機構と味の素は、特定のアミノ酸の摂取が認知症の病態を抑えることを発見した。ロイシンなど7種の必須アミノ酸を特定の割合で組み合わせてモデルマウスに投与すると脳の炎症性変化を防ぎ、神経細胞死による脳萎縮を抑制する可能性が示されたという。

 ダイセルは、北海道大学、北海道情報大学と共同で、こんにゃく由来セラミドにヒト脳内アミロイドβペプチドの蓄積を軽減させる働きがあることを見出している。超高齢化社会の到来で加齢にともなう認知機能の低下が大きな社会課題となるなか、認知機能のケアにつながる食品素材の今後にも注目したい。

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