「もはや単独では革新的な技術・製品を開発し、次代を担う新規事業を創出するのは難しい」との声が多くの企業のトップ、研究開発担当者らから聞かれる。こうした状況を打破しようと各社はスタートアップや大学、公的研究機関とオープンイノベーションに取り組んでいる。知を結集し成果を挙げようと挑むが、結実しないことは往々にしてある。要因の一つとされるのが利潤の確保。企業が利益を追求するのは当然だが、プロジェクトに途中から加わる会社もあり、主導権争いや得られるであろう果実が小さくなるのを嫌う参加者が現れるといったことがある。しかし本来の目的を見失い、研究開発テーマを商業化できなければ元も子もない。海外ではアップル、グーグル、アマゾン、テスラといった世界を変える企業が躍動し、中国の企業も存在感を増している。グローバルで日本が伍していくには「共創」が不可欠である。大局的な見地に立ち、オープンイノベーションを進めていくことが求められる。

 オープンイノベーションの成功事例となり得るのが、スタートアップのAPB(東京都千代田区)だ。ほぼすべての部材が樹脂からなり、高いエネルギー密度、高い異常時信頼性といった特徴を兼ね備える次世代型リチウムイオン2次電池「全樹脂電池」の普及を目指している。発明者の堀江代表取締役は、研究開発に励むなかで「化学反応が起こる界面が重要」と思い至った。そこで出会ったのが三洋化成。両者は2012年に協業をスタートし、三洋化成のコア技術である界面制御技術によってブレークスルーを果たすことができた。

 APBの設立は18年秋で、その4カ月後に三洋化成が出資した。早期に実用化し、社会課題の解決に貢献したいという信念の下、関連する技術に長ける企業の参画を歓迎。JFEケミカル、帝人、長瀬産業、横河電機、豊田通商といった企業が出資するなど、事業化に向け、それぞれが役割を果たしている。

 今年5月下旬、福井県越前市の北日野工業団地内に立ち上げた全樹脂電池の量産工場の開所式を執り行った。現在は試運転中で、今秋の本格生産開始を予定している。同電池は、川崎重工業が開発中の自立型無人潜水機での採用が決まっている。また海外からは、再生可能エネルギー施設などに用いられる定置用蓄電池システムへの利用で問い合わせが寄せられている。

 オープンイノベーションの成果である全樹脂電池は、エネルギー業界に革命を起こす可能性を秘めている。大きな一歩を踏み出す瞬間が間近に迫ってきた。

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