新型コロナウイルスの感染拡大による景気減速が続くなかでも、関西の有力化学企業は将来を見据えた事業基盤の強化に取り組んでいる。第5世代通信(5G)サービスの開始やスマートフォンの高性能化、自動運転技術の開発進展などを背景に、最先端分野への設備投資や研究開発に力を注いでいる。厳しい事業環境下においても成長戦略を着実に実行し、難局を乗り切ろうとしている。

 第一工業製薬は霞工場(三重県四日市市)において5G製品向け光硬化樹脂用材料の増産体制を整える。同社はここ数年、マザー工場と位置付ける霞工場への投資を積極的に実施している。電子材料や土木建築材料、特殊界面活性剤、機能性ウレタン製品といった戦略製品の製造を相次ぎ行っているが、さらに電子材料の新プラントを竣工させる予定だ。

 田岡化学工業は需要が拡大する光学樹脂ポリマーの原料モノマーを拡充する。既存設備の生産性向上や生産品目のベストミックスの追求、他社委託製造の活用拡大、ライセンス実施による供給能力の拡大といった短期的対策に取り組む一方、中期的対策として播磨工場(兵庫県加古郡)で新規設備の建設に向けたインフラ整備を推進中だ。また三菱ガス化学と合弁会社設立を検討することで合意した。三菱ガス化学の光学樹脂ポリマーはスマートフォンやタブレットなどに搭載される高機能小型カメラレンズ材料として需要が増加しており今後、さらなる伸びが予想される。合弁会社設立によってモノマーの生産能力が強化されるとともに、新拠点の確保により、さらなる安定供給が可能となる。

 大阪有機化学工業は金沢工場(石川県白山市)で半導体レジスト用モノマーの新規設備を建設し、最先端であるArF(フッ化アルゴン)用およびEUV(極紫外線)用の供給体制を整えた。近年、デバイスメーカーがシングルナノオーダーの超微細加工を本格稼働させており、EUV用モノマーも試作段階から本格的な量産段階に移行している。大阪有機化学は新規設備により、ArF用モノマーの供給力を従来の約1・5倍に引き上げるとともに、最先端レジスト用モノマーの、より厳しい品質に対応し、供給面でもトップシェアの地位を確立していく。

 事業活動の維持・発展には継続的な投資が必要だが、その判断やタイミングを誤ると事業衰退のリスクが高まる。新型コロナウイルスの影響によって当初計画の変更を余儀なくされている企業は多いが、リスクを承知のうえで新たな投資に挑むことも経営の本質といえる。

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