新型コロナウイルスの感染拡大を受けて3月26日に非常事態宣言が出されたタイは、多くの企業がテレワークなどを導入し出社する社員数を抑制している。化学業界でも、日系企業を含め多くが本社オフィスで在宅勤務に切り替えている。一方、工場は感染防止策を講じながら操業を継続中。延期などが懸念される2020年度第1四半期(1~3月期)決算発表は、各社実施するものの会見はオンラインで行うか見送る。未曾有の状況のなか、手探りで準備を進めている。

 タイのプラユット首相は3月26日に非常事態宣言を発令し、タイ全土で4月30日まで商業施設の閉鎖などが命じられた。企業はオフィスに勤務する従業員を出社と在宅のグループに分けるなど体制を見直した。初期段階で在宅勤務する社員用のパソコン手配といった対策に追われたが、現在は各社可能な限りテレワークに移行している。

 社員全員を在宅勤務とする企業も出ている。宇部興産のタイ法人であるウベケミカルズ・アジアは、首都バンコクに構える本社で原則在宅勤務とし、必要な従業員のために月曜日と木曜日だけオフィスを開けている。

 タイは公的な書類に代表者や責任者の署名が必要なサイン文化で、完全な在宅での対応は難しい。化学・素材大手のサイアムセメントグループによると「本社オフィスと工場の管理部門の従業員は90%が在宅勤務に移行している」。タイ石油公社グループの石油精製大手タイオイルやバイオディーゼル製販などを手がけるエナジー・アブソリュートは「オフィスに出社している社員は全体の3割」という。多くの日系化学メーカー・商社もオフィスへの出社人数の割合は2~3割程のようだ。

 非常事態宣言下でも製造業の工場操業は認め、化学企業も生産活動を続けている。ただ、「工場でも間接部門やエンジニアの一部で在宅勤務を導入」(タイで複数工場を運営する日系化学メーカー)している。

 タイ政府は在宅勤務推進の要請などに加え、4月3日からは夜間(午後10時~午前4時)外出禁止令を発出し規制を強化した。タイの新型コロナ感染者の増加ペースは鈍化し、15日の新規感染者は30人だった。

 企業にとって次の課題は決算発表。タイ証券取引所(SET)に上場する企業は、3月末から45日以内に第1四半期決算の開示が求められている。監査法人が平時のような業務の遂行ができないなどを理由に延期が懸念されるが、化学・エネルギー各社は予定通り公表する姿勢を崩していない。

 タイの非常事態宣言は軍事クーデター発生時などに発令され、今回は05年以降で8回目となるが過去にない難局。先を見通せない環境のなかで各社の対応は続く。(岩﨑淳一、ワンギャオ・シッティガン)

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