新型コロナウイルスの感染拡大防止に向け、対策製品の増産が相次いでいる。マスク向けでは建機用油圧フィルター世界トップの国内メーカーが量産に乗り出したほか、検温習慣が広がり品不足となっている家庭用体温計は、国内大手各社が中国の工場で稼働時間を延ばし増産。ウイルス不活化効果のある除菌スプレーは、写真フィルムで培った銀の技術を応用した製品や、アルコールだけでは効きにくいノンエンベロープウイルスにも効果を発揮する製品などに対するニーズが高まり、各社は増産対応に追われている。

建機向け技術活用

 建機用油圧フィルターで世界シェア7割を占めるヤマシンフィルタ(神奈川県横浜市)。長年培った技術を活用し、不足するマスク向けにフィルターの量産体制を整え、このほど複数の国内マスクメーカーに供給を始めた。佐賀事業所(佐賀県三養基郡)で月360万枚の生産能力だが、5月末に540万枚、9月には720万枚まで増やす計画。建機分野以外では、すでに国内アパレル大手に採用されるなど実績があるが、マスク向けも柱に育てる。

 量産を始めたマスク用フィルターのポリプロピレン(PP)繊維径は200~800ナノメートルと、一般に市販されているマスクフィルターの約3000ナノメートルと比べ超微細で、かつ3次元の綿状のため平面構造の市販品よりウイルスを効率的に捕集できるという。また市販品は静電気の帯電によりウイルスなどを捕集するため、呼気に含まれる水分や時間経過によって捕集性能が低下するが、同社品は帯電がなく長時間使用しても性能低下がほとんどないとしている。

中国での稼働延長

 家庭用体温計で国内シェア5割強(推定)を占めるオムロンヘルスケアでは、3月の受注が前年同月比2倍以上に増加した。すでに中国大連の工場で増産に着手しており、3月の生産能力は従来比(前年同月比)5割増に引き上げた。4月末にかけて7割増まで高める計画で、日産6万本弱の供給体制となる見通しだ。一方、国内シェア3~4割(推定)を占めるテルモも、2月から中国浙江省杭州市の工場で増産中だ。両社とも稼働時間を延長し増産対応を図っている。

 家庭用体温計に使われるアルカリボタン電池の需要も伸びている。ボタン電池を含むマイクロ電池で世界シェアトップクラスのマクセルは、3月の出荷数量が前年同月比7割増加。家庭用体温計に使われるLR41は今後も需要増が続く見通しのため、小野工場(兵庫県小野市)で休日操業などにより増産を進める考え。

 本来は工業用製品や製造設備、食品などの表面温度を非接触で計測する製品だが、新型コロナ感染拡大以降、スクリーニング用途で需要が伸びているのが堀場製作所の非接触放射温度計「ITシリーズ」。体温計としてはメーカー保証はしていないが、感染が疑われる人の表面温度を図ることで、体温のある程度の指標として用いることができる。

 今年は同シリーズ全体で年間4000台をグローバルでの販売目標としているが、すでに4月の見込みを含むと、1月からの販売実績は約1500台に上る。本社工場(京都市南区)の人員配置を変更して2交代制で増加に対応。3月の生産量は2月の2倍となっている。

 堀場製作所ではCRP(C反応性たんぱく質)血液検査機の受注も増えている。PCR検査のように新型コロナの感染を診断するものではないが、血液の炎症を調べることができる。「医療機関でPCR検査を行う前々段階に使用され、需要が増えている可能性がある」(同社)という。

 島津製作所は、肺炎の診断に使用するX線撮影装置の引き合いが増えてる。なかでも特に顕著なのが回診用装置。レントゲン室のない小規模医療機関や、移動させることができない重症患者などへの使用でのニーズが高い。スペインや英国では、体育館などを利用した急造の医療現場での活用もある。子会社の島根島津(島根県出雲市)や中国の工場で需要増に対応していく。

除菌ニーズに対応

 除菌スプレーも品薄が続き、各社は増産を急いでいる。富士フイルムは、写真フィルムで培った銀の技術を応用し菌・ウイルス除去効果が持続するアルコールスプレー・同シートを2月から富士宮工場(静岡県)で増産している。これまで医療施設などで使われてきたが、一般消費者にニーズが広がり、3月の2製品の生産量は前年同月比30倍に増えた。同社では「容器を確保できれば更なる増産が可能」としている。また昨年9月に発売した薬用ハンドジェルも、従来の医療従事者向けに加え一般消費者からのニーズ拡大を受け、今後増産する方針。

 新型コロナと類似するコロナウイルスの不活化効果を確認したフマキラーのキッチン用アルコール除菌スプレーは、「フル生産しているが需要に追い付かない」(同社)状況が続く。アース製薬は4月後半からアルコール除菌スプレーの生産量を1・5~2倍に増やす計画。ライオンのハンドソープの小売などでの店頭販売額は3月、前年同月比2倍に増えているという。

 また、マクセルの除菌消臭器は従来のコンシューマー向けと業務用を合わせ需要が急増。3月に続き、4~6月も数量で前年同期比4倍、金額で5倍に増えると予想する。とくに2月に発売した業務用オゾン除菌消臭器「MXAP-AE400」の出荷が順調。オゾンの持つ強い酸化力で菌やウイルス、においを元から分解する。清掃業者や一般企業の事務所向けで使用が拡大しているほか、中国やタイなどアジアを中心とした海外からの受注も増えている。これを受け4月以降、当初計画を上回る規模で増産する考え。

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