石油化学について継続か撤退か、事業判断の検討に入る機運が高まってきた。「2050年のカーボンニュートラル達成」および「プラスチックリサイクル体制の確立」という高いハードルが立ちふさがっていることが背景だ。いずれも課題解決の具体策が明確でなく、意思決定には時間が必要とみられる。

 「いまの時点では、どちらとも言えない」。ある社の石油化学担当役員は、事業撤退も選択肢であることを隠さない。米バイデン政権の誕生もあり、カーボンニュートラルは世界のコンセンサスとなってきた。アゲンストを受ける石油化学は「今後の大きな流れとして投資家の賛同を得にくくなる」とみる。
 昨年10月、菅首相が50年でのカーボンニュートラル達成を宣言して以降、化学各社も相次ぎ宣言に走った。石油化学など温室効果ガス排出量の多い事業では、自家発電の一部再生可能エネルギー化や省エネプロセスの開発といった対策が提示されている。しかし、これらは排出量を一定量削減するにすぎない。「実質ゼロ」の具体策については新たなイノベーションの実現にかかっている。

 解決策の一つとして期待されるのは、自家発電をやめ、再生可能エネルギーを外部から全量購入したうえで「電化」すること。しかし日本は諸外国に比べ再生可能エネルギーのコストが高く、国際競争力が保てるか不安視されている。

 もう一つの課題はプラスチックのリサイクル。消費されるプラスチックをほぼ完全にリサイクルするには、過剰な消費量の削減、バイオマス原料化、バイオプラスチックの増産、マテリアルおよびケミカルリサイクルの社会実装といった、あらゆる対策が必要とされる。しかし、その多くは、これから技術を確立したり、社会的な仕組みを構築する段階にある。その労力やコストは計り知れない。

 石油化学を継続するには、それぞれ単独でも難しいカーボンニュートラルとリサイクルを同時に成し遂げる必要がある。その両方を推進できる企業は世界的に限られ、達成できれば独占的地位を築けるかもしれない。一方で国内化学企業の多くはヘルスケア、半導体、次世代エネエルギーなどの先端分野を成長領域と位置づけている。石油化学のため、どこまで資源配分できるか迷わざるを得ない。

 多様な産業に基礎素材を供給する石油化学。ナショナルセキュリティーの観点から、一定規模を国内に残す必要があるとの意見も上がる。一方で撤退しない企業には、いばらの道が残される可能性もある。各社が腹を探り合うことになりそうだ。

記事・取材テーマに対するご意見はこちら

PDF版のご案内

社説の最新記事もっと見る