新型コロナウイルス感染症により、多くの企業が在宅勤務などの感染予防策を実施している。研究機関も例外ではない。理化学研究所(理研)や物質・材料研究機構(NIMS)などでは多くの研究者が在宅での研究に移行した。実験をともなう研究は一時的に中止または最低限に抑えられ、論文執筆など在宅でも可能な活動に集中せざるを得ない。その一方で、理論計算を中心とした分野では在宅でも問題なく研究が続けられている。

 政府は7日、7都府県に新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言を発令した。宣言を受け、埼玉県和光市や兵庫県神戸市などに複数の拠点を持つ理研は全事業所において、実験動植物の維持や新型コロナウイルス関連の研究開発を除き、8日から約4000人を在宅勤務に切り替えた。当初、緊急事態宣言に含まれなかった茨城県つくば市に主な研究拠点を構えるNIMSも県からの外出自粛要請に応え、必要不可欠な業務に対応する職員以外は在宅勤務を実施している。

 当然ながら、在宅で継続が困難な研究は多い。量子科学技術研究開発機構(QST)では動物や細胞を用いた実験など必要最低限に限り継続。産業技術総合研究所(産総研)は室内人数の制限や隔日での勤務により人数を減らしつつ研究遂行体制を維持する。こうした施策を通して、機関によるものの約7~8割の研究者が在宅での勤務を行っているという。

 一方、理論系の研究では従来と変わらない研究体制を築けている。マテリアルズ・インフォマティクス(MI)などに長けるNIMSでは外部から機構内サーバーにアクセスすることで計算や機械学習といったデータ駆動型研究を実施。QSTでもたんぱく質の立体構造解析などはネットワークにつなぐことでこれまでと変わらずに研究を行える。グループチャットソフトウエアも導入され、議論にも支障がない。

 機械学習や量子化学計算を基にした研究はコンピューターの進歩とともに急激に発展している。近年では、少ない学習データから精度良く探索する転移学習など人工知能(AI)の開発も進む。騒動を機に、データ駆動型研究がさらなる発展を見せるかもしれない。(橋本隼太)

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