日本医療機器産業連合会は先ごろ、2010年から19年までの国内医療機器メーカーの成長率をデータとしてまとめた。そこでは専業と兼業の明暗が浮き彫りになった。専業に脱皮したオリンパスや従来から専業だったテルモ、ニプロが売上高で2倍近くか、それ以上の成長を遂げたのに対し、キヤノン、コニカミノルタ、ニコンなど兼業は、ほぼ横ばいか10%程度の成長にとどまった。とりわけ帝人、東レ、カネカ、東洋紡など素材分野の兼業メーカーの成長率が低いことが分かった。

 なぜ、このような違いが生まれるのか。参入分野が異なることも大きいが、一つは危機感の違いだろう。専業メーカーは本業の医療機器がつまずけば会社が潰れてしまう。そのため全経営資源を医療機器事業に振り向ける。一方で兼業メーカーは医療機器事業が不振であっても他事業でカバー可能だ。また他事業との兼ね合いで医療機器に投入できる経営資源も限られる。全社に占める医療機器の売り上げ、利益が小さいほど、その傾向は顕著になる。

 最大の問題はマネジメント人材だろう。兼業の場合、医療機器事業の責任者は、生え抜きではなく、主力事業部から送り込まれることが多い。そして短いと3年、長くても5年単位で交代する。医療機器はイノベーションが次々に起こる産業だ。そのなかで持続成長に向け、経営トップにM&Aなどの大胆な投資を進言するには、在任期間が短すぎる。良質なM&Aを見極めるための深い業界知識や人脈を構築するのは困難だ。

 一方、この課題を克服し、素材兼業メーカーでも高成長を遂げている企業もある。過去10年の成長率が613%の旭化成、同281%のエア・ウォーターである。

 旭化成は12年に買収した米ゾール・メディカルが牽引車だ。ゾールに一定のオートノミー(自律性)を持たせることで成長を加速させている。エア・ウォーターの強さは、M&Aや業務提携で仲間を作り、環境変化に対応する「ねずみの集団経営」にある。豊田喜久夫会長・CEOが長く医療事業の指揮を執り、M&Aを成功させてきた。

 素材企業を中心に医療機器市場に参入し、主力事業に育成しようと青写真を描く企業がある。そういった企業は医療機器専業メーカーからプロ人材をスカウトしている企業も少なくない。ただプロ人材が事業責任者として長く活躍していることは寡聞にして知らない。プロを招くのも、生え抜きを育てるのも一筋縄ではない。医療機器に精通した人材に本気で事業を委ねられるか、兼業メーカーの経営トップには胆力が求められる。

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