鉄鋼、機械、化学工業などの重厚長大産業に加えて、食品、ファッションといった多様な産業が集積する兵庫県。大型放射光施設「SPring-8」やスーパーコンピューターを運用する「理化学研究所計算科学研究センター」など、世界に誇る先端科学技術基盤とともに、優れた技術を有する中小企業が各地に広がっており、こうしたモノづくり産業の厚みが兵庫経済の発展を支えている。近年は県内企業の多くが高い開発力や加工技術を生かし、健康・医療、ロボット、環境・エネルギー、航空・宇宙といった成長産業に積極的に進出するなど、さまざまな分野で新たなビジネスの創出が期待されている。
 兵庫県は大都市から農山村、離島まで、さまざまな地域で構成され、その多様な環境や風土から日本の縮図といわれる。昨今の人口減少や少子高齢化に加え、グローバル化にともなう経済環境の変化に合わせ、県では産業特性や地域資源などのポテンシャルを生かし、産業振興策を多様に展開している。兵庫県にはグローバルに事業活動を行う大企業だけでなく、独自な技術を持つユニークな中小企業が多く存在するが、こうした企業の多くが人手不足や事業継承といった問題に直面している。
 県では新ビジョン「兵庫2030年の展望」に沿って医療、水素・エネルギー、航空機といった先端産業の基盤形成を推進し、人口が減少しても活力が持続する兵庫を実現しようとしている。またスタートアップ企業の誘致や創業支援に向けた取り組みも目立つ。県や神戸市では起業・創業の全県拠点施設「起業プラザひょうご」をはじめ行政の施策が充実しているが、持続可能な開発目標(SDGs)課題解決に向けたスタートアップ支援のための「グローバル・イノベーション・センター(GIC)」神戸拠点開設を機に今後、さらに国内外からのスタートアップ企業集積に弾みをつける方針だ。
 これらに加えて重視しているのが働き方の多様化。テレワーク、副業といった従来の慣行にとらわれない働き方の選択肢拡大や、ワーク・ライフ・バランスに配慮した職場づくり、子育てがしやすい環境の整備など、年齢・性別・障害の有無に関わりなく働き続けられる環境づくりを目指している。地域経済を支える優秀な人材を確保・育成していくには、県内で働き、そして住みたくなるような魅力ある環境を整えることが重要となる。今年は阪神淡路大震災から25年の節目の年。未来を切り拓く有効な将来構想により、持続的な経済成長を実現していってほしい。

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