新型コロナウイルスとの闘いが続いている。当初は数カ月で収束するとの楽観的な見方もあったが、いまや楽観論は吹き飛び、長期戦の様相を呈しつつある。化学企業は不足する医療向け部材を増産したり、ワクチンや抗菌剤といった新製品の開発に力を注ぐなど、各社が懸命に取り組んでいる。世界は大きな感染症が広がるリスクを十分認識した。社会基盤を支える化学産業が果たすべき役割は、さらに強まったといえよう。

 コロナの影響は多方面に及んでいる。例えば新しい医薬品の開発。革新的な新薬の開発や治験の一部が、コロナの影響によりストップせざるを得ない状況にある。緊急事態宣言により研究所に出勤する研究員を絞らざるを得なかったり、研究リソースがコロナ用のワクチンや治療薬の開発に集中してしまっているためだ。コロナの影響が長引けば、こうした革新的新薬の開発が遅れ、他の疾病患者が増える恐れもある。化学企業のなかでも、研究開発や治験の遅れを懸念する声が増えつつある。

 一方でコロナ後も、AI(人工知能)や5G(次世代通信規格)を中心としたデジタル社会構築に向けた基盤整備などの動きは、とどまることはないだろう。むしろコロナによって社会基盤の脆弱さが露呈するなか、これらの社会実装に向けた本格的な取り組みが加速するとみるべきだ。化学企業は多様な社会課題の解決に貢献するべく、ぶれない開発や投資を続けられるか試される。

 コロナ前から走っていた中期経営計画は前提条件が大きく変容し、見直しを迫られる。刻々変化する足元の状況に柔軟に対応した経営の舵取りが欠かせない。しかし足元ばかり見ていては、つまづくことになる。コロナ後の変化を見据えながら、社会課題の解決に貢献するという使命を果たすため、長期の成長戦略を練り直すチャンスだ。

 化学大手では、三菱ケミカルホールディングスが2050年を見据え、10年後のあるべき姿を目指した長期ビジョンを2月に公表した。6つの社会課題を事業領域に設定、10年後に6つの事業領域の売上収益を現在の25%から70%まで引き上げるのが目標だ。住友化学や三井化学も10~15年先をにらんだ長期計画の検討に入った。両社とも将来、会社の中核を担うであろう若手・中堅の人材も議論に加わっている。この1年ほどかけて議論を深める方針だ。

 化学の本領を発揮し、社会基盤を支えて課題解決に資するため、化学企業は変化への柔軟な対応と変化を予測した備え、そしてぶれない長期戦略の実行が求められている。

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