研究データや成果の幅広い共有の進め方について日本学術会議の「オープンサイエンスの深化と推進に関する検討委員会」の提言が今月公表された。学術分野全般の現状を分析し、データプラットフォーム構築の必要性など挙げている。オープン型サイエンスと、産業利用されるクローズ型サイエンスのバランスが、科学および経済の発展には重要だ。日本は、国の政策を中心に課題解決に取り組んでいるが国内だけの話ではない。国際的に、どのように協調しながら、どう優位性を確保するか。難しい舵取りが求められる。

 提言では①データが中心的役割を果たす時代のルール作りの必要性②データプラットフォームの構築・普及の必要性③第1次試料・資料の永久保存の必要性-があるとし、日本が取り組むべき方向を示した。

 オープンサイエンスはICT(情報通信技術)社会が前提である。提言では、成功事例として今年1月に米国国立衛生研究所(NIH)、日本医療研究開発機構(AMED)など世界の資金配分・司令塔機関、学術誌出版社が協力し、新型コロナウイルス感染症に関する論文の投稿前に、その実験データを世界保健機関(WHO)に提供すると合意したことを挙げた。

 欧米では研究データの管理・公開に関わる組織・システムの整備が進み、試行錯誤を繰り返しながら、新たな仕組みを導き出そうと努力を重ねている。一方、日本は第5期科学技術基本計画にオープンサイエンス推進が明記され「統合イノベーション戦略2018/19」に具体策が盛り込まれた。超スマート社会「ソサエティー5・0」の実現へデータを管理・保存・共有し、必要に応じて公開できる基盤を整えようとしている。法律面では、昨年の不正競争防止法改正で「限定提供データ」が新設された。著作権などに当たらない、価値あるデータに対する不当な扱いを防ぐのが狙いで、データを公開・共有しながら権利を保護できるようにした。しかし海外で適用しない点が国際協調のうえでネックだ。

 化学系は、米国化学会のケミカル・アブストラクト・サービス(CAS)など他の学術に比べ研究データの国際基盤が整っている。提言では、日本において安全性や信頼性ある属性データのデータベースづくりを進めることに意味があるとした。また新規化合物の開発を人工知能(AI)やロボットで効率化するためのデータ利用が加速しているが、これらの面でも日本の特色を出すべきだとしている。それには推進政策に加え、研究者・大学・機関による意識改革も必要となってこよう。

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