デジタル革命による本格的な社会変化の時期が迫ってきた。新型コロナウイルスの感染拡大は、世界のGDPを戦後最大規模で減少させるなど経済に大打撃を与える一方で、デジタル革命を加速させる要因ともなっている。この結果、企業は従来の想定以上の変革のスピードアップが迫られている。日本の化学企業は、ライフサイエンス、半導体材料などの最先端の戦略分野において、世界の競合を相手に市場で勝ち残る戦略が求められている。事業環境が急激に厳しくなるなかで、そうした変革を達成するためには、強者連合の形成といった大胆な選択も求められよう。
 間もなく訪れるであろう一段と進化したデジタル化社会において、企業は従来と違う、あるべき姿への変革が求められる。その変革は開発、製造、販売、物流の各機能のあり方や、コーポレート部門における業務プロセスのあり方といったあらゆる項目に及ぶ。変革の本質は、デジタル化がもたらす効率の向上であり、新製品の開発から市場投入までのスピードをいかに短縮させられるかなど、スピードアップが企業の競争力を左右するキーワードになるとみられている。
 日本の化学企業は、それぞれ独自の技術で存在感を示している一方で、各社の戦略は大きく見れば似通ったものだ。今後の重点領域・成長領域は「温暖化効果ガス(GHG)の低減に貢献する環境・エネルギー分野」「デジタル化社会の高度化に貢献するIT分野」「人々の健康に貢献するライフサイエンス分野」の3つに集中している。
 これら分野において目指す先端素材あるいは、それに付随したサービスを開発して市場に問うためには、最先端のニーズ・課題を見極めたうえで、いくつもの領域にまたがる技術やノウハウを駆使する必要がある。さらにAI(人工知能)とビッグデータを駆使したマテリアルインフォマティクス(MI)など、デジタル革命が引き起こす新たなイノベーションを取り込むことも求められる。
 一方、新型コロナウイルスの感染拡大によって2020年度の企業業績は急速に悪化している。4~6月期決算発表時に公表された化学大手8社の通期業績見込みでは6社が前期比2割以上の減益とし、2社が予想を見送った。こうした厳しい時期に日本の化学企業が世界で勝ち残るには、強い事業が強いポジションを保っているうちに、それぞれの分野のトップランナーが分業体制を敷く、あるいは事業を統合するといった強者連合の形成も必要になってくるのではないか。

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