農林水産省が先ごろ、気候変動に対するリスク管理や適応策を実施する際の指導の手引きを作成した。農業は気温上昇、降水量の変化による影響を受けやすく、農産物の安定供給に支障が出る可能性が大きい。最善策をみつけ出すための模索が続くなか、手引きでは情報の収集・整理、対策の複合的な活用、多角的な取り組みを速やかに行うことを提案している。対策の効果をさらに高めるためには、技術によるアプローチが不可欠である。農業系研究機関をはじめ大学、ベンチャー企業などによる利用可能な技術開発を通じ、技術の選択肢を増やすとともに、AI(人工知能)を使った予想技術、地域産地ぐるみでのデータに基づくICT(情報通信技術)を積極的に活用。計画的・総合的な対策で被害が最小限に抑えられることを望みたい。
 今回の「農業生産における気候変動適応ガイド」では、水稲とリンゴの手引きが先にまとめられた。日本の農業は、日照りによる水稲不作への備えや知識を有する。しかし夏場の35度Cを超える高温や短時間の集中豪雨、冬場の気温上昇・急低下といった気候変動に対する経験は浅い。温暖化の影響の多くは水稲の白未熟粒・胴割れ米、果実の着色不良などとして表れ、品質低下を余儀なくされる。
 手引きでは①経験した気候変動の影響の整理②将来の影響に関する気候・気象データなど情報の収集・整理③現在行われている適応策の効果の実情と整理による対策レベルの把握④優先課題を特定し、適応策リストの作成⑤適応策を選び実行計画を策定-の5つのステップで、戦略的に取り組むことを勧めている。水稲編の例では、実行計画のなかに白未熟粒発生抑制策に葉色診断に基づく適正追肥の実施や、高温障害の軽減に移植時期の変更、高温耐性品種の導入といった現在対応できる対策を用意。間もなく普及する新技術であるリモートセンシング技術やドローンによる病害虫の早期発見、防除技術の高度化や、高温不稔技術の確立などもリストに示す。見直し改善しながら、科学的な手法によって地域に適した適応策を見いだしていくことに主眼が置かれている。
 計画策定には、ビッグデータを解析できるシステムと営農システムのリンクや、先進的な技術開発の推進、要素とする対策の入れ替えがフレキシブルにできる体系を組み立てることが重要なポイントとなるだろう。そして地域、産業、学問領域の枠を越えた異分野の産学官連携による技術開発を増やし、農業の高度化・精密化をオールジャパンで推し進めることが対策推進のカギを握っている。

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