東南アジアの軍事政権が国民が求める変化を封殺している。36年間もトップに居座るカンボジアのフン・セン首相は、陸軍と警察を掌握して政敵を排除。独裁体制を敷き、国内で批判すら許さない状況だ。タイでは強権を維持するプラユット政権や王室に対する不満を募らせた若者を中心にデモが続く。ミャンマーでは軍事クーデターに対する抗議デモに対して、軍は殺傷能力の高い武器で弾圧し死傷者が増えている。これらメコン地域各国は発展が期待され、国民は新しいリーダーによる成長を求めている。既得権にしがみつく軍事政権は、国民の声に真摯に耳を傾ける必要がある。
 とくに事態が悪化しているのがミャンマー。発端は昨年11月の総選挙。アウンサンスーチー氏が率いる与党が大勝して、国軍の支持政党が劣勢に追い込まれた。目算が狂った軍トップのフライン総司令官は2月1日、軍事クーデターで全権を掌握した。これに反対して多くの国民がデモに参加しているが、軍は武力行使を躊躇せず、多数の死傷者が出ている。
 ミャンマーは10年前、半世紀ぶりに民政に復帰した。国民はこの10年間、自由と発展を享受したが、クーデターにより再び暗黒の時代へ逆戻りすることを恐れている。国際社会は軍に圧力を強めるべきだが、具体性を欠いたままだ。しびれを切らせたデモ隊が先鋭化し、内戦状態に突入する恐れもある。
 カンボジアでは軍人出身のフン・セン氏が1985年から首相を続ける。ポル・ポト派による国民虐殺に反対してベトナムへ亡命した過去を持つ同氏だが近年、政敵を強制的に排除するなど独裁色を隠そうとしない。17年には最大野党の党首を逮捕して解党させ、選挙で与党が全議席を獲るよう画策した。今月の会見で「支援が得られれば永久に首相を続ける」と述べている。
 14年のクーデターを率い、首相を続けるタイのプラユット氏も軍人出身だ。19年の総選挙で形式上は民政に復帰したが、総選挙前に軍事政権は軍の政治的影響が残るよう憲法を変えた経緯がある。16年に国民の信頼が厚い前国王が死去し、長男が現国王に就いたが、前国王と対照的に贅を極めた生活を送る。これに若者を中心に国民の不満が頂点に達し、連日のデモで憲法改正や王室批判を展開する。
 これら3カ国の人口は約1億4000万人、合計面積は日本の約4倍に及ぶ。中国とインドを結ぶ地政学的好立地も相まって、民主政治が適正に行われれば国は発展し、国民の生活も豊かになるはずだ。軍は国や国民を守る本来の役割を見つめ直す必要がある。

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