国内医療機器産業の成長が止まらない。日本医療機器産業連合会のデータによると、国内上位10社のうち8社が過去10年間で売り上げをほぼ倍増させた。具体的には2010年と19年の比較で、オリンパスが3553億円から6418億円と181%、テルモが3282億円から6289億円と192%、富士フイルムが2677億円から5041億円と188%、HOYAが2031億円から3750億円と185%、旭化成が551億円から3378億円と613%、ニプロが1328億円から3358億円と253%、シスメックスが1247億円から3020億円と242%、エア・ウォーターが669億円から1879億円と281%という伸びだ。

 なかでも旭化成の6倍という数字は、12年に買収した米ゾール・メディカルの貢献が大きい。この10年間、電機をはじめ国内製造業の多くが伸び悩むなかで、ほとんどの企業が2倍近い成長を果たしたのは奇跡というほかない。この高成長率は今後も続くと見込まれ、専業メーカーを中心に株式時価総額も増加している。バイオCDMOにも力を注ぐ富士フイルムHDは5兆円、テルモは4兆1000億円、オリンパスは3兆1000億円に達する。

 ただ、このような高成長にもかかわらず、医療機器産業の国内での認知度、社会的な影響力は小さいといえる。それは新型コロナで人工呼吸器など医療物資の重要性が再認識されても変わっていない。心臓ペースメーカーを世界で初めて事業化した米メドトロニック(現在はアイルランドに本社)が、長らく米国産業の「宝」と位置づけられてきたのと対照的だ。これは国内医療機器メーカーの多くが、兼業であったことに由来するものだろう。国内トップのオリンパスでさえ、長らくカメラ事業が主力で、医療機器事業の社内的地位は低かった。また専業で売上高1兆円を超えた企業が存在しないということも大きいと考えられる。

 高成長産業である医療機器産業が、日本経済を支える重要な基幹産業としての地位を確保し、社会的な影響力を持つには、国内で再編を加速させて1兆円企業を早期に誕生させるしかないだろう。その場合、国内トップのオリンパスと同2位のテルモが手を組むしかないと考える。両社は元々、東京の渋谷区幡ヶ谷の地で育った同根企業で、エートス(精神)は近いものがある。オリンパスは一昨年、テルモは今年9月17日に100周年を迎えた。両社が一緒になって医療機器産業の地位を引き上げ、将来的には経団連会長を輩出するような産業にまで躍進して欲しい。

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