昨年後半から欧米や中国の景気が回復してきたものの、今年もコンテナ不足や滞船問題、さらにロシア・ウクライナ情勢、円安、エネルギー価格高騰などの影響が世界経済に打撃を与えている。

 1月初めに約100隻だったロサンゼルス港の滞船が4月には約40隻に減り、ようやく滞船問題は収束して年内には通常の状態に戻るかと思われたが、そう簡単ではなさそうだ。

 JETROロサンゼルス事務所の森本政司氏によると、北米のロサンゼルス港とロングビーチ港の沖には今も70~80隻が滞船している。上海市のロックダウンが解除され、輸送が再開したことで7月にかけて北米港湾で新たな滞船が発生する可能性もあるという。北米西岸港湾の労使交渉の行方も懸念材料の一つとなっている。

 本紙が先日、専門商社を対象に実施したアンケート調査で「コンテナ不足・滞船による海上運賃上昇・航空運賃の上昇など物流コストの影響」について半分強の企業が「影響が出ている」と回答した。供給が途切れないように在庫を多めに抱えようとする動きも発生しており、国内の危険物倉庫やタンクターミナルは満床に近い状態になっているという。

 ロシア・ウクライナ情勢、円安、エネルギー価格高騰などの影響で原料コストは上昇している。ある化粧品原料商社は「原料メーカーから5次値上げの要請が来ている。原料によっては10次値上げもある」と現状を訴えていた。しかし食料品を除き、最終商品の価格が大幅に値上がりしたという実感は、まだ国民にはないのではないだろうか。

 日銀が6月10日に発表した5月の国内企業物価指数は前月比で横ばい、前年同月比は9・1%の上昇、総務省が6月24日発表した同月の消費者物価指数は、変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が前月比0・1%、前年同月比2・1%の上昇となった。電気・ガソリン代や食品の値上がりで消費者物価指数もじわじわ上がってきたが、まだ卸売りの段階で値上がり分を吸収しているようだ。

 だが、いずれ限界が来る。「秋口には『さまざまなものやサービスが値上がりしてきた』と実感を持つのではないか」とみる経営者も多い。ある人は「最後は、最終商品まで値上げしないと商流のどこかに歪みが生じるだろう。物価が上がっても、それにともなって国民の所得も増えていくという、良いインフレの循環が必要だ」と述べた。

 来月10日は参院選。良いインフレに持っていくには、どのような政策が必要なのか。もっと活発な議論を願う。

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