「“安全”の証明はできても“安心”の証明は困難」。日本食品添加物協会の福士博司会長(味の素副社長)が取材中、こう吐露した。食品のパッケージに「無添加」「添加物不使用」などの表示があると、消費者は健康で安全な食品だという印象を受けやすい。食品や飲料メーカーも、それによる売り上げ効果を否定できないだろう。

 福士氏は「すべての物質は化学式で表せる」とも語る。裏を返せば、その安全性は証明できるものである。食品添加物も事実、そういった科学的判断に基づいて食品衛生法で使用が認められている。だが、これを敬遠・忌避する消費者の感情も無視のできないものだ。

 マーケティングの多くは人の感情に働きかけている。嗜好品においては、それがより顕著だろう。生きるうえで無くても困らない商品やサービスについて消費者が購入するべき根拠・理由を訴える。そこで多用・強調されるのは興味深く、魅力的なストーリー性であることが多い。つまり人の感情を動かせるかどうかが購買に直結する。

 感情的に受け入れやすいストーリー性に、それを補強する科学的根拠が結びつくとメッセージはより強力になる。生分解性やリサイクルを謳うパッケージを採用し、購入自体が環境保護につながるといった、昨今よく見られる商品コンセプトは、その一例だろう。しかし、それも詰まるところ「社会貢献したい」という消費者の感情を揺さぶらなければ話は進まない。

 “ニーズ”と“ウオンツ”は一見区別が付きにくく、生活必需品から遠ざかるほど輪郭が曖昧になる。トイレットペーパーを買う時と洋服を選ぶ場合では、ニーズとウオンツの比率は変わる。必要は論理によって、欲しいものは感情によって説明できるとも言えようが、消費者は大抵、この2者が混在したものに突き動かされている。福士氏は慧眼と、そしておそらくは経験によって、この真理を理解している。だから「TPOをわきまえた発信をしないといけない」と言う。

 食品添加物は食品の保存などに大きく貢献している。飽食の時代においては悪者扱いされがちだが、実際に添加物がなくなったら、食品のサプライチェーンは大混乱を引き起こす。ヘルスケア、フードロスに対して果たせる役割も多い。福士氏は「“必要か不必要か”の存在から“無くてはならないもの”に変えていきたい」と語る。“無くてはならないもの”の解釈、そして必要との区別は容易ではないが、その価値観のシフトには、人の感情をつかむことが必要になるだろう。

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