テルモは新型コロナウイルスワクチン向けに新たなシリンジ(注射器)の開発に着手した。17日に日本で接種が始まった米製薬大手ファイザー製のワクチン「コミナティ筋注」は1バイアル(瓶)5回接種できる製品として承認審査が進んでいたが、承認時にはワクチンが注射器内に残りづらい特殊な注射器を使うと1瓶当たり6回分取れることになった。テルモはインフルエンザワクチンでの使用を想定して2009年に発売した針植え込み式注射器「FNシリンジ」を改良。より多くの人が新型コロナワクチンをいち早く接種できる環境の整備に役立てる。

 ワクチンは液体で、バイアルと呼ばれるガラス瓶に一定量が入っている。瓶からワクチン1回分を注射器で吸い上げて採取する。

 現在、テルモが販売するFNシリンジは針が注射器に植え込まれており、注射器を押し切った後も内部に薬液がほとんど残らない構造となっている。このため、コミナティの1瓶からも6回分取れることが期待されるものの、皮膚から浅い皮下への注射を想定して作られていることから針の長さが13ミリメートルと短い。

 このほど開発に乗り出した注射器は植え込む針を長くし、筋肉注射に使えるようにすることでコミナティに対応する。行政とも協議を進めており、「ワクチンを希望する人が、なるべく多く接種できるように1日でも早く医療現場に届けたい」(テルモ)としている。

 加藤勝信厚生労働相(当時)は20年7月、新型コロナワクチンを全国民に供給するため、テルモやニプロなど注射器や針を製造する医療機器メーカー6社のトップと会談し、これらの製品の増産を要請。各社は厚労省と品種や数量を決めて増産を実施し、すでに十分な量の注射器と針が国に備蓄されているという。

 ただ、今年1月に入って米国と欧州連合(EU)で一部の特殊な注射器を使ったときに限り、もともと5回分で計算されていたファイザー製のワクチン1瓶を6回分とすることが許可された。しかし、海外でも薬液が残りづらい特殊な注射器は一般的ではない。

 米CBSの報道によると、米医療機器大手のベクトン・ディッキンソンが米国政府に供給した注射器の総量2億8600万本のうち、薬液が残りづらい特殊な注射器は4000万本と14%にとどまる。

 日本の大手メーカーでは唯一、ニプロがテルモとは異なるタイプの薬液が残りづらい1つの瓶から6回の接種が可能となる注射器を扱っている。タイにある工場の足元の月間生産量は約50万本。9月ごろには日本国内に1カ月で数百万本の供給を目指して生産体制の増強に向けた検討を進める。

 新型コロナワクチンを巡っては14日に特例承認されたファイザー以外に、日本政府は英アストラゼネカや米モデルナとも供給契約を結んでいる。両社のワクチンは1瓶から可能な接種回数が10回となる予定だ。

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