4月から約2カ月にわたる中国・上海のロックダウンによる部材供給の滞りや世界的な半導体不足で、上期に減産を余儀なくされたトヨタ自動車が、ここに来て怒涛の勢いで挽回に乗り出した。2022年4月から23年3月までの世界生産の計画台数を970万台としているが、5~8月減産の大幅なリカバリーを9~11月の3カ月で行う計画を策定した。9月の生産が昨年同月比で約70%増、10月、11月がともに約20%増で「急速に繁忙感が増している」(中部の自動車樹脂部材関連メーカー)。中部エリア、ひいては日本の景気加速に弾みを付けることは間違いない。

 さまざまな産業に影響を与えている半導体供給やアジアの自動車生産チェーン。その重要性が上海のロックダウンで改めて認識させられた。日中間の部品流通の一時停止などで、自動車生産・販売世界トップのトヨタも、減産を余儀なくされた。とくにロックダウン以降の5、6、7月は国内の主力工場も減産と生産再開を繰り返し、部材や部品メーカー、取引先企業などに少なからぬ影響が出た。

 いぜん自動車販売は、欧米や新興市場などを中心に世界的に好調を維持している。米国同様、大型車を好む中国ではトヨタ「アルファード」の異常ともいえる人気が衰えていない。中古でも数年落ちなら日本円で1000万~2000万円弱と非常に高い。現車確認できれば、日本国内の新車価格の2倍から3倍でも即、買い手がつくほど。中国以外でも、トヨタ車人気は衰えていない。こうした背景にも支えられ、トヨタは大幅増の生産計画に挑んでいく。

 日本も、かつては半導体、そして液晶と、世界に誇れる産業が興隆した。また00年前後の3G(第3世代移動通信システム)普及期には、人口当たりで最も携帯電話が普及した「デジタル大国」という一面もあった。「失われた30年」-。1993年前後とされるバブル崩壊後、高成長路線に戻ることができず、日本が世界に誇れる産業は次々と失われた。

 そうしたなか、電気自動車や次世代環境車で中国や欧州などの猛追を受けながらも、自動車の生産・販売で世界トップを維持するトヨタ。下期からの挽回で経済全体への好影響を期待したい。日本が今のところ、世界に何とか伍しているといえば、トヨタに代表される自動車産業ではないか。自動車は「100年に1度」と言われる大変革期に入った。世界との競争に打ち勝つためにも、産官学挙げた取り組み含めて今以上に全力で挑むべきだろう。それが失われた30年の「リカバリーショット」になると信じたい。

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