KHネオケムの業績が四半期ベースで増益に転じる。自動車や住宅などの主要市場が新型コロナショックから回復の兆しを見せる中で、2020年下期は主要製品の販売数量が上向くと想定。一方で、各国で新型コロナの感染が拡大するなど事業環境の不透明さも依然強く、コスト削減策にも引き続き取り組んでいく。

 「世界各国で経済活動が再開し、第2四半期を底に徐々にではあるが景気も回復傾向にある」。7日の電話会見で、髙橋理夫社長は事業環境に対する現在の認識をこう語った。同日の2020年上期決算では5月に公表した従来の2020年12月期業績予想を据え置いた。売上高は前期比17・2%減の780億円、営業利益は32%減の65億円を見込む。

 自動車塗料や住宅資材などの原料に使われる基礎化学品は自動車生産や住宅着工が上向く中で、7~9月期から緩やかな需要の回復を想定。年間の営業利益11億円の8割超(9億円)を下期に稼ぐ計画だ。

 エアコン向け冷凍機油原料は家庭用エアコンの販売に底堅さがみられる半面、エアコンと冷凍機油原料の在庫調整に時間を要することで10~12月期以降の本格的な需要回復を見込む。化粧品原料は新型コロナに伴うインバウンド消費の減少を受けて国内需要は低迷が続く。一方で「中国需要はかなり回復」(髙橋社長)しており、下期にかけて輸出が堅調に推移する。機能性材料全体の下期の営業利益予想は36億円(年間では64億円)だ。

 半導体フォトレジスト向け高純度溶剤などの電子材料は新型コロナ対策のテレワーク普及に伴うIT(情報技術)デバイスの需要に一服感が出るも、半導体自体の需要は下期も底堅く推移するとみる。上期の営業利益8億円に対し、下期は11億円を見込んでいる。

 髙橋社長は会見の中で、「依然として不透明な事業環境だが、自分達でコントロールできる部分はタイムリーに最善策を講じる」と強調した。

 同社は上期に国内2工場の2年に1度の大規模定期修理を実施。その間は1~3月期までに積み上げた在庫を販売したが、新型コロナの感染拡大を受けて4~6月期の原料価格が大幅に下落。製品価格のフォーミュラー(市況連動)制を取る基礎化学品などで採算が大きく悪化した。

 それでも原料調達、製品供給の両面で主要顧客と折衝し、多くの製品群で一定の利幅を確保した。物流費などの販売管理費も削減することで、20年上期の営業利益は前年同期比50%減の23億円となり、業績予想修正前の期初計画比でみると8割の利益が確保できた。

 事業環境の変化を踏まえて、設備投資計画も必要性や時期、金額を再検討するなど予算をゼロベースで再編成しており、「今まで以上に厳格なモニタリングを実施する」(髙橋社長)方針だ。

 その一方で、中長期的な収益拡大に向けた施策は着実に実行する。

 化粧品原料は21年上期までに生産設備を改造し、生産能力を従来比で10%程度引き上げる。千葉工場(千葉県市原市)では2021年上期の稼働開始予定でガスタービンを更新し、発電などに利用する燃料を液化天然ガス(LNG)に転換。これにより同工場の二酸化炭素(CO2)排出量が従来に比べて10%以上削減できるほか、収益面でも一定のメリットが享受できるという。

 四日市工場(三重県四日市市)では、エアコン向け冷凍機油原料の一種であるベースオイル(油剤)の増強工事が計画通り2020年初旬に完了した。75億円を投じ、生産能力を従来比で1・5倍に引き上げた。

 新型コロナ禍による需要低迷により冷凍機油原料全体の足元の稼働率は67%程度と期初想定(80%超)を下回るが、髙橋社長は「需要回復に備え、既存設備を含めて最適生産体制の構築を進める」と話す。子会社黒金化成(名古屋市)の次世代半導体向け材料の新設備も新型コロナ禍で一部資材の納入が遅れたが、2020年内には完成する予定だ。

 プラントの高度制御システムも2023年までに国内設備全体の8割以上に導入する目標を掲げる。2020年も主要プラントへのシステム導入を進めるほか、近年多発する生産トラブルを防ぐために大規模定修に併せて予防保全も実施。予防保全と、不具合の予兆を見つける検査の両面を強化することで「収益機会の損失を防ぐ」(髙橋社長)構えだ。

 KHネオケムは2030年までの長期ビジョン達成の第一歩となる2019~2021年の中期経営計画で、今後の事業拡大に向けた冷凍機油原料、化粧品原料の大型投資を検討する方針を打ち出している。新型コロナ禍による事業環境の変化を踏まえ、投資の時期や内容を含めた新たな概略計画をベースに事業性評価(FS)を実施中で、髙橋社長は「今後の需要動向を見極めながら、現中計期間中に最終投資判断を下す計画」と語る。

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