世界初のコロナワクチンが承認されてから約4カ月。多くの国・地域で接種が始まっているが、いぜんとして感染の波は引きそうにない。感染力が高いとされる新たな変異株が次々に登場し、変異株と「イタチごっこ」の戦いになってきた。また、高い予防効果が期待されるワクチンは開発されたものの、各社の供給が追いつかず、域外への輸出制限に踏み切る政府も出てきた。自国向けの調達に躍起になっている先進諸国を尻目に、中国やロシアは新興・途上国との「ワクチン外交」を着々と進めている。果たして全世界にワクチンが行き渡ってパンデミックが終息し、「新しい日常」を迎える日は来るか―。国内外で開発されている主なコロナワクチンの特徴や最新状況を紹介する。(4月30日更新)

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コロナワクチン「効く?」「安全?」「日本は?」最新Q&A(4月28日更新)

・どれぐらい有効なの?

 各社が承認申請用のデータとして行った大規模臨床試験(治験)の結果では、発症予防効果を示す有効率として、米ファイザー/独ビオンテック製が95%、米モデルナ製が94%、英アストラゼネカ(AZ)製が76%、米ノババックス製が90%、米ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)製が66%と報告されています。1回接種で開発されたJ&J製以外は、2回目の接種が終わってから1週間~3カ月程度の間に発症した人数で評価した数値です。

 ファイザー製とモデルナ製は6カ月後の有効率が90%超で、半年後も高い効果が続く可能性が報告されています。米疾病予防管理センター(CDC)が集計した米国の接種実績によると、両ワクチンには感染自体を予防する効果も90%、1回接種だけでも発症予防効果が80%あるようです。

 中国企業では、シノファーム製(北京型)が79%、シノバック製が50%、カンシノ製が68%(1回接種)と報告されています。

 乳幼児や妊婦などに対する臨床試験も進行中です。ファイザー製は12~15歳の青年に対する臨床試験で有効性、安全性が確認されました。日本などでは現在16歳以上に対して承認されていますが、対象を12歳以上に拡大する申請が各国で行われる予定です。

・変異株にも効くの?

 従来より感染力が高く、日本でも主流になってきた英国型の変異株(N501Y変異)には、従来株(武漢型)に近い効果が期待できるようです。ファイザー製のワクチンを導入し、世界でいち早く接種が進んでいるイスラエルは、国民120万人分の接種後データを解析した結果、英国型が蔓延した状況でも、感染予防効果は92%、発症予防効果は94%だったと発表しました。

 一方、南アフリカ型の変異株(N501Y変異+E484K変異)は、既存のワクチンでは効果が低下する傾向のようです。これまでの治験データで、南ア型に対する有効率はJ&J製が57%(オリジナル株も含む南ア全体の数値)、米ノババックス製が55%、AZ製が10%(大学・研究機関の治験)でした。非臨床データでも、従来株より抗体価が大幅に低下したという実験結果が報告されています。ファイザー製は、実験データでは抗体価が3分の1に低下しましたが、南アで登録した800人の治験データでは発症予防効果が100%だったとの報告も出ています。

 南ア型と同様の変異(501Y変異+E484K変異)があるブラジル型、フィリピン型や、日本で報告されている出所不明のE484K単独変異、インドで猛威を振るっているインド型(E484Q変異+L452R変異)などに対する効果を示す治験データは、まだ報告されていません。

 欧米各社は変異株に対応したワクチンの開発にも着手しています。ファイザーやモデルナは、既存のワクチンを追加接種する治験を開始し、変異株に対応した修正ワクチンも開発しています。一部は今年中にも実用化される可能性があるようです。独キュアバックなどは、あらゆる変異株に対応できる多価ワクチンの開発も進めています。

・安全性は?

 ファイザー製の場合、2月中旬から先行接種が行われた日本の医療関係者約2万人の調査データによると、接種部位の痛み(2回目接種後に約9割が経験)、全身倦怠感(同7割)、頭痛(同5割)発熱(同4割)などが有害事象として多く報告されました。海外治験データなどによると、他社のワクチンも傾向は同じようです。

 一部の人には、重いアレルギー反応(アナフィラキシーショック)も報告されています。ファイザー製の場合、アナフィラキシーの頻度は米国では100万回あたり5例程度とされていますが、日本では100万回あたり約46例(4月18日時点)と海外より高い傾向です。日本がとくに多い原因はまだ解明されていません。

 欧米では、AZ製とJ&J製の接種後に、脳内などにできる希少な血栓症と血小板減少を併発した症例が少数ながら報告され、死亡例もありました。欧州の薬事当局は、両ワクチンと血栓リスクが関連している可能性を認めつつも、「接種するメリットがリスクを上回る」として接種を推奨しています。両ワクチンは、いずれも「ウイルスベクターワクチン(増殖しないアデノウイルスを使ってコロナウイルスの遺伝子を投与する)」という種類のワクチン。米当局の担当者は、血栓と血小板減少が、ウイルスベクターワクチンに共通する有害事象である可能性を示唆しています。

・なぜ供給量が足りないの?

 今年中にファイザー/ビオンテックは最大25億回分、AZは30億回分、ノババックスは20億回分など、欧米各社は大量供給を約束していますが、各国の需要に供給が追いついていません。

 供給不足の原因は、ワクチンの早期開発・承認に製造準備が間に合わなかったこと。そして、製造拠点が集中している欧米やインドで自国優先の政策がとられ、世界的にサプライチェーンが混乱していることです。

 EU(欧州連合)は今年1月、AZやファイザーが約束していたEU向けの供給が遅れることがわかると、EU以外への輸出を制限する措置を急きょ導入しました。米国では国防生産法を発動し、政府が製薬企業に対して国内向け生産を優先するよう命じる権限を持っています。製造に必要な部材やバイアルなども規制対象になるため、ワクチンそのもの以外の調達がボトルネックになっている企業も多いようです。

 AZ製ワクチンの最大の受託製造業者であるインド血清研究所は、感染が再爆発している国内の供給を優先するため、少なくとも6月頃まで輸出を中止しました。米政府は、国内で使う予定だったAZ製ワクチンをインドに提供する方針を表明しました。

 製造現場の人材教育や品質管理が、急速な増産対応に追いついていないことも明らかになりました。J&J製の製造を受託した米エマージェント・バイオソリューションズの工場では、品質上の問題が発覚したため米当局が製造中止を命じました。製造エリアの床や壁が損傷し、製造知識が不十分な人材が配置されていたようです。同社はJ&J製の製造に誤ってAZ製の原料を混入し、約1500万回分のワクチンを廃棄した経緯があります。

 日本も、すべての接種対象者に対するワクチン調達のメドが立ってきたようです。このほど訪米した菅義偉首相は、米ファイザー本社の経営トップと電話会談した後、全対象者分が「9月までに供給されるめどが立った」と表明しました。ファイザーとは年内に1億4400万回分を供給することで今年1月に合意していますが、新たに追加される供給量などは明らかになっていません。

 これまで日本への供給量は限られていましたが、5月からは供給量が増えていく見通しのようです。6月中にはすべての高齢者が2回接種できる量が供給され、7月中に高齢者以外の接種も開始できる可能性が出てきました。

 都市部の接種は、5月にも承認見込みのモデルナ製が採用される見込みです。同社とは6月末までに4000万回、9月末までに1000万回供給する契約を結んでいます。5月後半には東京と大阪に大規模接種会場を立ち上げ、1日1万人接種できる態勢を自衛隊主導で準備する予定です。

・国産ワクチンは出てくるの?

 日本も外資系由来のワクチンが先に実用化されていきます。ファイザー製に続き、5月にはAZ製や、武田薬品工業が承認申請したモデルナ製の承認が見込まれます。武田薬品はノババックス製も治験を実施しており、今年下期の接種開始を目指しています。

 開発品自体は海外発ですが、日本で製造される「日本製ワクチン」もあります。日本向けに供給されるAZ製の多く(約9000万回分)はJCRファーマがワクチン原液を製造し、充填・包装は第一三共子会社やKMバイオロジクスが行います。ノババックス製の国内製造は、武田薬品が光工場(山口県)で年産2億5000万回分の製造能力を準備して行います。

 日系企業が開発したワクチンも臨床開発が始まってきました。アンジェス、塩野義製薬に続き、3月末に第一三共、KMバイオがそれぞれ治験を開始しました。アイロムグループのIDファーマも5月までに治験入りする予定です。

 各社の開発課題は、有効性・安全性を評価する最終段階の治験をどう行うか。感染者が比較的少ない日本で、欧米のように迅速に1万人単位の参加者を集めて、十分な有効性・安全性の根拠となるデータを短期間で収集するのは困難です。ワクチン開発でグローバルな大規模治験を行った経験もありません。最終治験を始める頃には、ある程度の国民にワクチン接種が完了している可能性があり、その状況でプラセボを接種されるかもしれない臨床試験を行うことは非現実的。各社は、日本に限定してワクチンを実用化する場合は、欧米のような大規模治験は免除されるような特例的な対応を政府に求めているようです。

 菅首相はこのほど記者会見で、「緊急事態に対しての法改正をしなければならないと痛切に感じている」と話し、緊急時にワクチンを迅速に国内導入するための法整備を検討する考えを示しました。日本政府が国防・国策としてのワクチン事業の重要性を認識し、どれだけ柔軟で迅速な対応ができるかが、国産ワクチンの成功と産業育成の鍵になりそうです。

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