新型コロナウイルスワクチンの開発が本格化してきた。7月に入り、「1番手グループ」の企業が承認申請前の最終治験を相次ぎ開始。いち早く導入したい各国政府の後押しもあり、最短で秋ごろにも最初のワクチンが供給され始める見通し。日本でも最初の臨床試験が始まったほか、来年には1億2000万人分のワクチンを調達することなども決まった。医薬品製造支援機関(CMO)などと協力した量産体制も整い、日本のバイオ系CMOやワクチンメーカーも大量生産に協力。すべてが順調に進めば、来年には全世界で最大80億接種分の供給が可能になる見込みだ。

・最速で今秋にも供給へ

 6月までに第2/3相臨床試験(P2/3)として最終治験を始めた英アストラゼネカ(AZ)に続き、7月には中国のシノファームやシノバック、米ファイザー/独ビオンテック、米モデルナと「先頭集団」のワクチンが相次ぎP3試験を開始した。各試験とも3万~4万例の登録を目指す大規模治験。中南米やアフリカなど、新たな感染流行地にも治験網を広げている。

 開発のタイムラインが明らかになっていない中国を除き、現時点で1番手の実用化が期待されるのは、ファイザー/ビオンテックとAZのワクチン。ファイザーは、治験が順調に進めば10月にも承認申請し、緊急使用許可(EUA)などの特例措置による迅速承認を狙う。AZも9月に英国で供給開始する目標を掲げていたが、感染者減で症例登録に時間がかかり、時期を「年内」とやや後ろ倒しにした。

 早くワクチンを確保したい政府の意向も、開発を加速させている。米トランプ政権は、年明けまでに3億接種分のワクチン確保を目指す「ワープ・スピード作戦」を立ち上げ、有望なワクチンなどを開発する企業を全面支援。米国にまず1億接種、必要に応じ5億接種の供給を約束した仏サノフィと英グラクソ・スミスクライン(GSK)には21億ドル、同様の約束をしたファイザーにも19・5億ドル、3億接種を供給するAZには12億ドルを支援。すでに総額100億ドル(約1・1兆円)を各社に投じている。

・全世界で80億接種分、日系企業も協力

 米キャタレント、スイス・ロンザなどCMO各社も加わり、全世界に向けた量産体制も急ピッチで整備されつつある。1番手集団は各社とも10億~20億接種の製造能力を確保。米ノババックスのワクチン製造には、AGC子会社、富士フイルム子会社も協力する。現時点で明らかになっている各社の供給計画・能力を合算すると、来年末には80億接種近いワクチンが流通可能になる見込みだ。

・日本も治験開始、海外から調達も

 日本でも臨床開発が前倒しで進み始めた。アンジェスが6月末、国内1番手で臨床試験を開始。秋には最終治験へ進め、来春の実用化を見込む。臨床開発や製造などの自社機能がない同社は、さまざまな企業と協力する「アンジェス連合」を構築。現時点で15社が提携を結んでいる。来年には100万人分以上の供給能力を目指す。

 塩野義製薬も11月ごろに治験入りし、医療関係者などには年明けにも供給できるようにしたい考え。買収したワクチン子会社の設備を増強し、来年末までに3000万人分以上を用意する。同社は、経済産業省、厚生労働省の製造支援事業で合計370億円以上の助成を獲得した。

 開発が進んでいる外資系のワクチンも国内導入が進み始めている。厚労省は、来年6月までにファイザーから6000万人分(1億20000万接種)、AZから来年3月までにまず3000万接種、同年中に合計1億2000万接種を調達することで各社と基本合意。合わせると1億2000万人分を確保できる計算になるが、ほかの開発企業とも交渉を進める方針。AZは今月中に日本でP1/2を始める予定で、AZや米ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)も来月に国内治験を開始する。

 ノババックスのワクチンも、武田薬品工業を通じて国内導入される。武田薬品が日本向けの開発、製造などを行う。インフルエンザワクチンの製造設備がある光工場を増強して、2億5000万接種以上の製造体制を整える。厚労省から約300億円の助成も獲得した。

 田辺三菱製薬子会社の加メディカゴも、海外で治験を始めているが、日本に供給する意向だ。

・インフルワクチン設備も活用

 約11年前に厚生労働省が始めた新型インフルエンザワクチンの製造支援事業も活用される。新型インフルが流行したとき半年以内に全国民分のワクチンを供給できるようにする事業で、同事業に参加した明治ホールディングス傘下のKMバイオロジクス、第一三共もコロナワクチンの開発に着手。両社は自社品の開発を進めるとともに、同事業で立ち上げた製造設備を活用して、AZが日本向けに供給するワクチンの充填・包装を受託する。AZのワクチンは、日本向けの原液製造をJCRファーマが受託することも決まった。

 KMバイオは、GSKからアジュバント(免疫増強剤)の日本向け製造も受託する予定。GSKがアジュバントを提供する仏サノフィ、メディカゴのワクチンなどが対象になる見込み。KMバイオは新型インフルワクチン事業でGSKのアジュバントを導入・製造した経緯がある。

・「予防効果」証明なるか

 だが不安もある。今年1月に特定されたばかりの新規ウイルスに対して、確実に、安全に感染予防できるワクチンとは、どう評価されるべきか。ウイルスが変異し続ければ、効かなくなる可能性もある。その効果がいつまで持つかも予測は難しい。実用化された前例がない遺伝子ワクチンも多数開発されている。

 米国食品医薬品局(FDA)が有効性の承認基準として提示しているのは、「有効率50%以上」。これは一般的な季節性インフルエンザワクチンと同程度の水準だ。早期導入を確実にするために薬事当局がハードルを下げた形だが、70~80%を期待する声も多い。前代未聞のスピード開発が成功するかは、数千人~数万人規模の大規模治験で、当局が納得できるような有効性、安全性を証明できるかにかかっている。

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