自然界、生体にはさまざまな優れた機能があり、それを模倣して新しい材料開発を目指すバイオミメティクスのような研究が日本でも盛んになっている。そうしたなかで「異方性」に着目しているのが大阪大学の中野貴由教授。必要な方向に必要な機能を発揮させる異方性材料学を提唱している▼その代表例が骨。骨はコラーゲン線維にアパタイトがまとわりついている構造をしているが、荷重がかかる方向にアパタイトの結晶が配列している。骨の強さは骨密度だけではなくアパタイトの配向性が大きく影響していることを発見した▼人工骨デバイスの開発に欠かせないのが金属3Dプリンター。3次元積層造形は形状を制御するための技術と思われているが、うまく使いこなせば原子の配列も制御できるという▼成果の一つがチタン合金製の脊椎固定用デバイスで、今年6月に保険収載された。椎体骨の接触面は3Dプリンターによる特殊な微細構造となっており、デバイス表面・内部で骨形成が進むと同時に配向化を誘導する。患者自身の骨を粉砕して空洞部分に充填する処置をしなくても骨癒合が可能になる▼異方性を利用することにより最少のエネルギーで最大のパフォーマンスを発揮する材料が実現できる。自動車、航空宇宙、建築など幅広い分野に適用が期待できそうだ。(21・12・10)

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