こんな読みにくいもの、売れるわけがない、と思ったのが最初である。視認性がいまいちで、めくるのにも時間がかかって。それにどこまで進んだか物理的手応えがない。こんなもの…▼先見性のなかったことを証明されたかたちとなった。講談社の話だが、電子書籍の売り上げが紙のそれを初めて上回ったという。電子コミックが大幅に売り上げを伸ばし、電子書籍は前の期に比べて約30%の増収。コンテンツが広く受容されることはそれ自体なんの問題もないだろうが、この電子書籍の売り上げが街の書店の売り上げに寄与しないことを考えると複雑な気分になる▼最初は電子書籍に否定的だった小職も、いまやデジタルコンテンツ数百冊を抱えるヘビーユーザー。これが一台の端末に全部収まっている。持ち運べるからなんだと言われれば返す言葉もないが、ここに自分の過去が詰まっているという充足感を与えてくれるのは確かである▼しかし、である。電子書籍はバッテリーが充電されていることが前提である。災害や紛争などで電力危機のような事が起きれば、たちまち無用の長物になりかねない。他のデジタルデバイスにも言えることだが、過度にそれに頼るのは考え物だろう。愛読書と言える書物は誰にもある。その「本」はぜひとも紙の書籍として大切にすべきであろう。(22・3・9)

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