助けてあげた亀によって海の中にある竜宮城へ連れて行かれ、乙姫様らに歓待されるが、残してきた老母が心配になり戻ると数十年が経っており途方に暮れ、乙姫様にもらった玉手箱を開けると老人になってしまう浦島太郎。ハッピーエンドではない物語には、なんとも言いがたい不思議さが漂っている▼50年前、グアム島で元日本兵の横井庄一さんが島民に発見された。太平洋戦争終結から28年間もジャングルに潜んでいたことになる。いつか日本軍が再び盛り返してくると固く信じていたという。帰国後、すっかり変わった日本の姿にさぞや驚いたことだろう。玉手箱があったら、横井さんは開けただろうか▼ジャングルに潜んでいた28年の間に、日本では東京オリンピックや大阪万博が開かれ、人類は初めて月面に着陸し、世界初のマイクロプロセッサーが登場するなどテクノロジーが著しく進歩した▼今から28年後を考えてみよう。2050年、世界はどうなっているだろうか。人類はカーボンニュートラルを達成しているだろうか。疑いなく今後、これまで経験したことがないスピードで科学技術が進化を遂げ、イノベーションが起き、社会構造が大きく変化しているはずだ。そのとき、人類は玉手箱を開くことなく、ハッピーエンドを迎えているだろうか。(22・1・24)

記事・取材テーマに対するご意見はこちら

PDF版のご案内

精留塔の最新記事もっと見る