有馬朗人さんが亡くなった。NHKのインタビューに答えている姿をつい最近見たばかりだったから驚いた。原子核物理学の研究で優れた業績をあげ、東京大学の教授、そして学長、理研理事長、参議院議員と文部大臣・科学技術庁長官を歴任。「末は博士か大臣か」の両方を実現した▼いま盛んに功罪が取り沙汰されるゆとり教育や国立大学法人化だが、その方向性を決めてきた人でもあろう。ただ、法人化ついては、率直に間違いであったと認める発言をしている。ゆとりについても、指摘される弊害については、説明を怠った自分の責任だと潔く語っている。東日本大震災のときには、津波対策を訴えなかったことを科学者として一世一代の不覚とした。そう本当に潔い人だった▼俳人としても有名。句誌「天為」を主宰していたほか、俳壇最高の賞とされる蛇笏賞も受賞した。ユネスコの無形文化遺産として、新たに「俳句」の登録を目指そうと、協議会を設立した▼何足もの草鞋をはき、それぞれの世界で高みに立ったなんとも密度の濃い忙しい90年だった。ただ、研究者としてノーベル賞を受賞するまでに学問を究められなかったことを痛いほど悔いていたともいう。あちら側の世界で見果てぬ夢をもう追いかけているかもしれない。〈のみとりこ存在論を枕頭に〉(朗人)。(20・12・9)

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