とかく人の世には前提や建前というものがある。暗黙のルールとか常識などとも言う。普通に生活していれば、暗黙のルールを尊重する空気のようなものは自然と身に付く。飼い犬だってルールを覚えるし、家のなかの空気を読むこともできる▼例えば会話のなかで唐突に、1+1はいくつですかと聞かれたら、何のためらいもなく2と答える。足し算の和を聞いているのですね、ルールは十進法ですね、などと確認したりはしない。おかげさまで子供が3人できましたので、うちの夫婦の場合は1+1は3です、ということも普通は言わない▼しかし、社会における暗黙のルールというものは、歴史とともに移ろっていく。人間の文化、文明の進歩がルールを変えるし、グローバル化のように多様な人々が交流することによっても変わる。その変化はときに急激で、世代が違うと了解事項のようなものが共有されていないため、話しが全くかみ合わないということが起こる▼最近、そうした急激な変化を実感する。例えば働き方。ついこの間まで有給休暇を頻繁に取る人に不信の目を向けていたが、いまや消化を促している。対面での意思疎通を重視していたはずがテレワークを推奨している。これまで培ってきた常識がひっくり返っているのに、それなりに順応する脳味噌は不思議だ。(21・3・9)

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