論理では説明できない勝ちがある。プロ野球の名将、故野村克也さんが好んで使った「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」という言葉の真意はそこにある。もともとは、江戸時代の武芸家・松浦静山が剣術書『剣談』に残した言葉だ。では勝ちに導いた判断のベースには何があるか。それは直観だろう。しかも美意識にもとづく直観▼経営は論理的な思考法、判断に基づき行われるべきであり、それゆえ様々な経営理論が生まれ、コンサル会社が活躍し、企業内でもMBA取得者が存在感を発揮している。しかし論理、理性が導く正解は「コモディティ化」「差別化の消失」に直面せざるを得ない。こういう思考法には限界が露呈しつつあると指摘するのが、数年来のベストセラーとなっている『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(山口周著)だ▼グローバル企業が幹部候補生を美術系大学院大学で学ばせている実例などが紹介されている。直観に基づく経営判断が大成功を収めた例として、ソニーの「ウォークマン」や、アップルの「iMac」などがあるという▼美意識と直観。過日、当欄で企業メセナのことを書いたが、それとも関連していそうだ。まずは美術館、劇場、音楽ホールあたり。しばし遠のいていたそういう場所へ足繁く通いたいものだ。(22・2・9)

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