偶然だが、昨日に続いてきょうも女神の話。『風と共に去りぬ』でメラニー・ハミルトンを演じたオリビア・デ・ハビランドさんが亡くなった。104歳だった。この映画の主人公は実はあなただったんですね、と名画座のスクリーンに向かって問いかけたことをいまも忘れない。女神ってたぶんこういう人のことなんだ。たしかまだ十代だった私は無性に心打たれたのだった▼絶世の美女だけれど高慢ちきな主人公スカーレットを本気で泣かせたのが、この人の死だった。メラニー臨終のシーンこそがあの映画のクライマックスだったのではないか。アメリカ南北戦争に翻弄される一家の波瀾万丈の物語がもちろんあの映画の醍醐味ではあろうが、その中でひときわ存在感を放っていたのがメラニーの静謐な視線だった▼ビビアン・リーは綺麗だった。クラーク・ゲーブルもキザだけど男らしくてかっこよかった。でも、デ・ハビランドさんが演じたメラニーの神々しさの前にこのふたりは脇役のように見えた▼自分のまわりにいる人々へのメラニーの利他的というより非利己的な無私の愛があの映画の本当のテーマだったのではないか。そしていまこう問おう。メラニーのあの静謐な視線は、貧富の差が拡大し、米中対立が激化する米国の現在の姿をどう見るのだろうかと。(20・7・29)

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